第6話迎え酒でこそ、九州男児

美沙には何人もの男、セフレが居り、件の九州男児とご破談となってからは特定の男というものをつくらず、

その男性関係は、このわたしが言うのもおこがましいのを承知で言えば、乱れまくっていた。


美沙も例外に洩れず、まるまると肥っていた。

しかし一方で、わたしのしる限りのその手の女性たちと違っていたのは痩せる努力も怠ってはいなかったということだ。


夜のジョギングはもちろん、公園での縄跳びに、家には硬水を常備している。

(この影響でわたしもネット通販で定期購入することになったのだが・・・)


仏壇へ備える水は、コントレックスにはしない。

硬水だから、幾日もグラスに注いだまま放置していると、グラスに茶渋ならぬ水渋が浮いてしまうのが嫌だった。

軽くゆすいで埃を取り、水道水を注ぎいれ、仏壇に供え、ちーんと鐘を鳴らし炬燵で寝入っていた美沙を起こしてしまう。


「遅かったね・・・」

口元から流れ出かけた涎を口の中へ押し戻すようにもごもごと口ごもったように言う。


「あすこのコンビニの店員が、馬鹿なせいで遅くなったんだ。文句があるなら、あのオーナーに言うんだな。

CS(カスタマー・サティスファクション)とはなにかを訊いてみればいい。」


先刻、愛車を停めたコインパーキングも、おなじオーナーが経営をしている。

コインパーキングの価格設定はともかくとして、コンビニのレジ係に対して教育をすべきである。

馬鹿丁寧な対応をもとめる客も一定数居るのであろうが、それを上回る(これはあくまでわたしの主観にすぎぬわけだが・・・)

一定程度、客を”さばく”という視点も必要なのではないか。


もともと、この一帯はだだっ広い田んぼだったが、昭和何年かはしらぬが、カスリーン台風かなにかで堤防が決壊し、

大阪湾からそう遠くないという地理的条件もあり、塩害が発生し農家は廃業、大阪圏のベッドタウンに変貌させるべく、

宅地造成をされた土地らしい。

京阪沿線ということもあり、松下系企業に勤める労働者にもうってつけだったのだろう。

なかなかの先見の明をもっていたのは、現オーナーの父親の代、あのオーナーはドラ息子にすぎぬということなのだろう。

美沙からリクエストされていたシュークリームと紅茶を、炬燵の天板のうえにドサッと置き、

「はい、どうぞお姫様」

と皮肉をこめずに供してやった。


美沙は自分からリクエストしたくせに、なんの反応もしめさず、寝息すらたてやがる。

いつものことだから、わたしは何も思わない。


金曜日の27時に電話をしてきてもしもし、出るなり

「いますぐローソンのシュークリームと、午後ティーがないと死んじゃう~~」とだけ言って電話を切りやがったのだ。


金曜は仕事の関係で飲みに行くから家には行けない、はやくても土曜の午後であることは事前に告知をしており、

そう告げたとき、「じゃあ~バタやんと遊ぶ~」と言っていたはずなのに。


バタやん(=バター犬のように舐めまくってくることから付いた愛称らしい)とは違い、わたしは舐める趣味を

特出してもってはいないし、自他ともに認めざるを得ない、その方面はいたってノーマルなはず、完全なるデブ専という点を除けば、

だから、その点において、美沙の満足度、CSを向上させるに足る男であるとは全然おもっていない。


バタやんほか、何人かの面々に対して、わたしは嫉妬すら覚えてはいない。

でもこうして、呑んでヘロヘロになって昼過ぎまで寝たいところであっても、午前3時過ぎに起こされ、酔い覚ましのコーヒーを淹れ、

2時間弱、車を運転してでも美沙邸への家庭訪問を拒否しないのは、美沙と居るときの空気感が、たまらなく好きだったからである。



「バタやんはどないしはったん?」


「仕事があるからって、あんたに電話したちょっと前に帰ったよー。

これから四国で、うどんの写真を撮りに行くんだってー。」


バタやんはフリーランスの商業カメラマンをしているらしかった。

カメラマンと聞いて、ハメ撮りなんかもお手の物なんだろうなぁとおもったが、その趣味は一切なくバター犬よろしく、

ただひたすらに舐め専であり、はじめてやったときはアナルに中出されたと、いけしゃあしゃあ話す美沙という女がとても興味深いのだ。


「この前さ、ピル飲んでみよっかって所望したら、かんかんに怒って出ていっちゃったよ。」

那美子の件をさりげなく言ってみた。


那美子という固有名詞を使ってその存在を、美沙にしめしたことはないが、適当に遊んでいることを

美沙もしっていたし、それをとがめてくるはずもない。

お互い、好き放題、やりたい放題なのだ。


「わたし、婚活でも所望しようとおもって~。」

被せてくる美沙はやっぱり好い。

だがわたしの頭の中でクエッションマークが17個くらい点滅したような気がした。


これはいけないとおもい、台所にはしり、冷蔵庫のコントレックスを取出す。

一口弱しか残っていなかった水を一息で飲みほす。

1.5リットルのボトルをクシャクシャに潰して、ごみ箱へ放り選手交代、生絞りオレンジ酎ハイを取出し、プシューッとプルタブを抜き、

ゴクゴクと喉を鳴らして飲む。

迎え酒、実に健康的だ。

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