Femme Fatale
俺は、夢の中で細川忠興になっていた。雲一つない青空の下、俺は九曜紋の
多分、ここはあの世だ。
忠興である俺は
俺はなぜか、ラファエル前派のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティを思い出した。
不実な才子、ロセッティ。奴には二人の「ファム・ファタール(宿命の女)」がいた。一人は、「友人」ウィリアム・モリスの妻ジェーン。もう一人はロセッティ自身の妻リジーだった。
ロセッティはジェーンに対する道ならぬ思いゆえに、リジーを失意のどん底に突き落とし、自殺同然に死なせてしまった。そんな奴の後悔の念が生み出した傑作が『ベアタ・ベアトリクス』だ。
男が女を求めるのが「地獄」につながる。女は、男の脳髄の奥深くに眠る「地獄」を引き出して、男に見せる。
キリスト教的な価値観からすれば、確かにガラシャは「聖女」なのだろう。しかし、当人の旦那である忠興にとっては「ファム・ファタール」ではなかったのか?
そう、いわゆる「悪女」だけが「ファム・ファタール」ではない。男が女を求める限り、そして男が女を憎む限り、女は男に対して「ファム・ファタール」であり得る。男にとって女は恐るべき「迷宮」だ。途方もない底なし沼、男が見たくないものを否応なく見せる「深淵」。
女は男にとって、女神にも悪魔にもなり得る。だからこそ、男は女に惹かれつつも憎むのだ。それが異性愛の男の…あるいは男の異性愛の「業」だ。
✰
「ああ、何だ。夢じゃん…」
俺は目を覚ました。ここにいるのはあくまでも俺だ。細川忠興でもなければ、荘子でも蝶でもない。
しかし、夢の世界から現世へと意識が切り替わる、曖昧な時間。その間は自分自身が何者かよく分からない。
「意識と無意識の混ぜ合わせ」
夢の中で細川忠興になっていた俺が追い求めていた
遠い昔の片思いの相手か? それとも、これから出会うかもしれない見知らぬ誰かだろうか?
最近、ある男性作家が妻への暴力事件で逮捕されたけども、俺はそいつに忠興の小説を書いてもらいたい。何しろ腕の良い小説家だ。つぶすのは(つぶされるのは)惜しい。俺はそいつが書く物語を読みたいのだ。
男と女の「地獄」の物語を。
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