第21話

「彼は生徒会のメンバーよ」


生徒会長はとんでもないことを口にする。四人が一斉にフリーズした。


「あの、すみません。もう一度言ってもらえますか」


「如月君は生徒会のメンバーよ」


何を言っているのか理解できなかったとか聞こえていなかったとかそういったわけではない。単純に信じられなかっただけだ。如月とかいう男子生徒は耳にピアスをしていてとてもではないが生徒会のメンバーには見えない。正直どこかのヤンキーだ。


「如月君は、これでも生徒会会計で校内ランクは三位なのよ」


これまた驚きだ。初顔合わせは闘技場で因縁つけられた時で取り巻きを連れていた。このときはヤンキーにしか見えなかった。それよりも気になったのは


「如月先輩が生徒会なのは理解できました。だけど校内ランク三位はさすがに理解できません。あの実力で三位とか本当ですか 」


「当たり前よ」


「それが本当なら次の序列戦で三位が僕に代わりそうですね」


余裕で序列三位になれると宣言する誠一郎に

生徒会長は首を横に振る。


「確かに君なら如月君から三位の座は奪えると思う。だけど、これだけは確実に言えるわ。本気を出した如月君と戦えば無事ではいられない」


何故なら


「彼は学園最強に近い男だから。そもそもさっき使っていたのは彼のメイン装備ではないわよ」


なんとなくだがそのことには気づいていた。

あのときの如月はなんというか動きが単調だった。まるであの固有武装リベレイトの能力をわかっていないような戦いかただった。それも、メイン装備ではないからと言われれば納得できる。


「さっきの喧嘩のときに使ってた固有武装はCランクレベルだ。序列20番以下の適合者にならこれで十分だった。だがお前と戦い俺は負けた。そして確信した。お前は強い。だから俺はお前に謝らなければならん。お前を見下してすまなかった」


目の前の男子生徒に頭を下げられて困惑する誠一郎。生徒会長を見ると生徒会長は一回頷くと


「如月君、もういいわ」


「しかし・・・」


頭をあげるのを渋っている如月に


「如月先輩頭を上げてください。僕はそもそも怒っていないですから」


如月が頭を上げた。


「これからよろしくお願いします、如月先輩」


「よろしく、赤城」


二人は力強い握手を交わす。そして如月が部屋を出ようとした。そのとき


「なにちゃっかり逃げようとしてるのかしら」


低い声で呼び止められ後ろをゆっくりと振り返る。


「まだ罰を受けていないじゃない。さあいきましょう、如月君」


耳を引っ張られて部屋から出された如月だった。部屋を出る直前に痛だっっ、という声を残して。


扉が閉じると


「はぁー」

「はぁー」


生徒会の二人は揃って大きなため息をついたのだった。




二日後の放課後。誠一郎がいつもトレーニングしている場所には二つの人影があった。その二つの人影、誠一郎とエリス・ラティアークは太めの木の枝を持って対峙している。そして、


「はあっ」


先に動いたのはエリス・ラティアーク。木の枝を小さく振りかぶり最短距離で振り下ろす。


その攻撃は空を切る。その直後今度は下からの切り上げが斜め上に向かう。その攻撃も受け流される。しかし攻撃は止まらない。横薙ぎを放ち、さらにその次は袈裟斬りと攻撃をし続ける。しかしいずれも誠一郎には当たらずエリスはだんだんと焦り出す。焦りからわずかに木の枝を振るうスピードが落ちた。その瞬間には木の枝が高速で振り抜かれてエリスは木の枝を飛ばされる。


エリスが地面に座り込んでいる。そこに誠一郎がスポーツドリンクをもってやってきて隣に座る。


「お疲れ様。はいどうぞ」


そう言ってスポーツドリンクを頬につける。

それを受けとるとプルタブを開けて飲む。冷たい飲み物は運動後に飲むととてもうまく感じる。


「前よりも大分よくなってきたね。始めたばっかの頃は攻撃と攻撃の繋ぎ目がすこし空いていたけどそれをたった5日ほどで流れるような剣戟に変えることができている。これだけできるようになれば能力に頼りきりじゃなくても戦えると思うよ。あともう一回打ち合ったらクールダウンとして軽く走ってから帰ろう」


エリスが頷いたのを見て


「もう、動けるかい」


「大丈夫よ」


二人は立ち上がると再び木の枝を構えて同時に動き出した。


剣の稽古が終わり、ランニングに入る。クールダウンとして行うのは普通のランニングだった。五キロほど走ってその日の練習は終わった。




部屋に戻って私服に着替える。二人はシャワーを浴びてから外で夕飯を食べに行った。夕食中に学園の先輩に絡まれるも誠一郎に気づくや否やびびって逃げていった以外には特にイベントもなく学園の寮に戻った。



今までエリスの剣技の強化に時間を使っていて自分達の能力や魔法、武器については話し合いをしていなかった。あと3日後には覇王剣祭が始まる。ペア戦では個人の能力だけでくチームワークも勝利に関わってくる。能力を把握しておけば自分達がどう動けば戦いやすいかや弱点を補うことができるようになる。これは優勝を狙うものたちにとっては必須条件だ。優勝を狙っている二人はすぐに話し合いを始めた。


「さてと。本題に入るけど俺たち二人は覇王剣祭でタッグを組む。そこまではいいよね」


エリスにも許可を得ていたため覚えているか確認のために一応聞いてみた。覚えていたようだ。よかった。


「俺たちは、互いの能力のことを知らない。だからどんな能力をもっているか知りたい。教えてくれる?俺も教えるからさ」


本来なら身近な人であっても力を明かすのは得策ではない。敵だったらすぐに対策をたてられてしまうからだ。エリスには隠す必要がない。何故ならエリスは王女で素性もテレビで見て確認済みだからだ。


「わかったわ」


教えてくれるみたいだ。どうやら信用してくれているみたいだ。


「私は空間把握能力をもっていて、身体強化、回復、飛行魔法を使える。一応王室剣技リベラルアーツを使えるわ」


一通り能力を聞いて疑問に思ったことがある。

「ねえ、エリス。王室剣技ってなに?よかったら教えてくれない」


「王室剣技っていうのはね、イギリス王家に伝わる剣技のことだよ。連戟と連戟を組み合わせて相手から回避の選択肢を奪う技だよ」


知らなかった。軽い説明を聞いただけでその技が圧倒的なものだとわかる。


「一応言って置きますけど、空間把握はなにかがある程度しか把握できないですわよ」


攻撃があるかはわかりませんわ、とエリス。


「じゃあ俺の能力も教えるよ。俺の能力は慣性制御で、使える魔法は身体強化だけだ。あとは赤城流の次期後継者で体技もたくさん使える」


このときエリスは思った。


・・・強いって程度じゃない。クロスレンジじゃ相手にならないじゃない。


改めて誠一郎の異質さに驚く。


「まあ、魔力量が多すぎるし魔力を体外に放出できないしで並みの武器は壊してしまうけどね」


今まで固有武装がなかった理由がここにあった。


「慣性制御ってどんな能力?」


気になった疑問をぶつけてみた。


「慣性って知ってる?」


「慣性ってあれだよね。車が急発進したときに体が後ろに引っ張られるってやつ」


詳しい原理はエリスにはわからないが例としてあげるならそれであっている。


「そう、それそれ。慣性っていうのは力の作用を受けない物体はその速度をかえず運動状態を持続する性質、ようは力を加えるまで、運動状態がそのままになるということだよ」


よくわかっていない顔をするエリスに、どんなことができるのかを説明することにした。


「その慣性っていうのを制御すると今まで右に動いていたものが予備動作なしで違う方向に動かせるんだよ。結果タイムラグを少なくして次の動作に移れるんだ。まあ、自分が触れていて、なおかつ肉体以外ものにしか慣性制御は使えないけどね」


それはしかたのないことではある。肉体に慣性制御を使えないのは慣性制御は力の向きを強引に変えるため肉体が負荷に耐えられないからだ。とにかくそれでも強力な能力なのは変わらない。話は戻るがここまで互いに教えたのは自分自身の能力のみ。武器の能力は互いに知らないため武器についても一通り教えることになった。


「はじめに俺から説明するよ。俺が使う武器はは二つ。まあひとつはエリスも知ってるただの真剣だ。これは固有武装ではないし能力もないから説明は要らないよね」


そこまでいってから真剣を見せた。両刃で普通の剣と一緒のものだ。違うといえば他のに比べて軽い。重さは日本刀よりわずかに重いくらいか。全く刃こぼれしていないところをみると丁寧に研いであることがわかる。


「そしてこっちが俺の固有武装、技剣テク・データだ」


そう言って手に真っ黒の両刃の剣を具現化する。


「こいつの能力は剣技の収納だ。この剣に触れた剣での攻撃を記憶、使用することができるんだ」


劣化コピーだけどね、と最後に付け加える。


「ここからが一番大事だが武装奥義の剣の威圧ブレードプレッシャーの使用時は俺を見るな。俺との実力差が大きいと失神したりするぞ。注意点はそれだけだ」


一通り固有武装の能力を説明したあとエリスの固有武装の能力について聞いた。


「それじゃあ私の番ね。私の固有武装は斬鬼ニルヴァーナよ」






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