第20話

「お前ら、Fランクなんか潰しちまえ!」


男の声と同時に四人の取り巻きが同時に突っ込んでくる。


一人は腕力を強化した右腕で右ストレートを放つ。本来ならFランクの実力では強化された右腕を避けることはできない。Fランクなら。誠一郎は首をひねってそれを避けた。


「なに!」


Fランクに攻撃を避けられたことで動揺を見せた男子生徒。この男にはわずかな隙が命取りだ。誠一郎は相手の攻撃を避けたときに一瞬で真横に移動して手刀を放つ。そして男は前に倒れて気を失った。その一部始終を見ていた残りの三人は


「こんなの聞いてないですよ」

「俺らじゃ無理ですよ」


三人のうちの二人は弱音を吐く。一人は無言で拳を構える。


「お前ら!いいから戦うんだよ!」


その声に弱音を吐いた二人は半ばヤケクソになり誠一郎に突っ込んでくる。

先に突っ込んできた男子生徒が強化された右腕で右フックを繰り出してくる。

右フックをしゃがんで避けるとそのまま飛び上がりながら右アッパーを繰り出す。二人目の男子生徒の顎に当り、右アッパーを食らった男子生徒は口から泡を吹いて倒れた。


「クソ!」


喧嘩をふっかけた男子生徒は業を煮やして先程の四人組の残りの一人とともに突っ込んできた。二人はどちらも脚力強化されている。今までの三人とは速さが違う。それでも

誠一郎にとってはあまり関係のないことだった。四人組の最後の一人が右腕を振り上げたとき、誠一郎は、脚力強化をかけた右足で前蹴りを放ち四人組の最後の一人に命中する。勢いよく飛んでいき男子生徒も巻き添えを食らった。


「ぐうっ」


呻き声をあげると飛んできた男子生徒をどかす。


「Fランクが調子に乗るな!」


鎌型の固有武装を出して鎌を振るう男子生徒。衝撃波が誠一郎を襲う。右足で虚空を蹴り、それで生じた風が衝撃波を掻き消しそれだけに留まらず風が男子生徒まで届いて吹き飛ばした。


「はい、そこまでね」


突然に声が聞こえてきた。


「はあ?誰だおま」


途中まで口に出してすぐに声の正体に気づく。


「すいません。Fランクになんか負けてしまって」


頭を下げて仲介に来た女子生徒に謝る。


「また喧嘩ふっかけたの?しかも負けたなんて。それじゃあ帰ったら説教ね」


「そんなバカなー!」


女子生徒と共に来ていた黒服の男に引きづられていく男子生徒。それを手を振って見送るとその女子生徒はこちらに向き直り


「先程はごめんなさい。生徒会の一人が喧嘩なんかふっかけてしまって。でも、彼もね悪気があった訳じゃないのよ。だから許してあげて、赤城くん」


「わかりました。ところであなたは誰ですか」


自己紹介をするように言うと、


「名前を聞いた方から名前を言うのが常識だとおもいますが?」


目の前の女子生徒の主張はもっともだ。ただしどんなことにも例外はある。それはこの場合だ。初めて会った相手が自分の名前を明かしていないのに当てたのだ。なにか裏があるのかと思うのは当たり前のことだ。


「私のしたことが迂闊でした。名前を明かしていないのに名前で呼んでしまいました」


誠一郎は、今までのやりとりで不自然なところがあるように思えたがたぶん大丈夫だと自己完結していると女子生徒が自己紹介を始めた。


「気を取り直して。私は覇王学園生徒会会長の北条京華といいます。序列二位の三年A組です」


生徒会会長の北条京華はとてもきれいな自己紹介をしているとそれを見た誠一郎は今まで感じていた違和感の正体に気づいた。


「僕は一年F組の赤城誠一郎です」


生徒会会長に名前がバレていたが一応自己紹介した誠一郎。


「彼が固有武装を使用したことについては目撃証言が出ているので私と一緒に生徒会室にきてもらえますか」


生徒会室へくるように言われた誠一郎。当事者のため拒否することは許されないだろう。


「わかりました。でもその前に一ついいですか?」


「はい、なんですか」


とても演技のようにはみえない。


「あの、言いにくいですが・・・」


これを言って良いのだろうかと一瞬思案するがすぐにその遠慮はいらないと結論付けた。


「あの、その気持ち悪い仮面、外してくれませんか」


言われて北条京華は僅かに目を開いた。しかしその他には特に反応を示さない。


「どういうことですか。私は元からこんな顔ですよ」


目を見たままとぼける生徒会長。


「その仮面じゃないです。本当の姿を見せてください」


曖昧に返す誠一郎。それだけで生徒会長には通じたようだ。


「はぁー、やはり君はすごいよ。今日会っただけで私の仮面を見抜くなんて」


無表情で驚いて見せる生徒会長。仮面をかぶっているという答えは正解の筈だ。今の生徒会長の顔を見ればわかる。うっすらとだが驚愕の色が浮かんでいる。恐らくはこの学園にいるほとんどの人間に自分の性格を隠していたからだろう。


「ねえ、そこの人。君も見抜いただろ。西門正春」


誠一郎が物陰に声をかける。すると物陰から 一人の男子生徒が出てきた。


「やっぱし君はすごいな。うまく隠れられてんとおもったんやけどな」


「話聞いてただろ。正ちゃんも気づいてるよな」


「さあ。なんのことかな」


とぼけて見せる正春。しかし誠一郎のまえでは通用しない。


「しらばっくれるなよな。この話どころか、さっきの男子生徒と戦ってるときからいただろ」


うまく隠れられていると思っていたのに隠れられていなくて、しかもいつからいたのかも当てられてしまった。


「気付いとったさ。彼女は名門北条家の令嬢や。周りに期待されてて、その期待に応えるために仮面をつけてんのやろうな。まあ、生徒会長としてちゅうのもある思うけどな」


「うん。大体合ってるよ」


自分の予想は合っていた。そのことにまずは肩を撫で下ろした。


「ということだから、このことは周りには言わないでおきます。僕らだけのときだったら仮面なんていりませんからね」


それと、と誠一郎。


「自分の家のために動くというのもいいと思います。だけど、自分の体は一つしかない。自分が何をしたいのか。自分はどう在りたいのか。それを見失わないでください」


誠一郎は言い切る。これで解決とは言えないだろうがすこしでも気が楽になればと思う誠一郎だった。後ろを向いてその場を去ろうとする。すると、後ろから肩を掴まれる。恐る恐る首を後ろに回すと生徒会長が笑っていた。


「感謝しているけどさっきのこと忘れた訳じゃないよね?」


笑顔のまま言うから逆に怖い。


「は、はい」


逃げられなかった。さきほどまで完全に空気だったため忘れていたが、隣にエリスと石路政弘がいたのだった。


「逃げられませんわ。二人ともいきましょうか」


空気だったことに少し拗ねているのかエリスは誠一郎を無理矢理引っ張っていった。





そして生徒会室。


生徒会長に続いて中に入る四人。中には三人先客がいた。一人は背の小さい黄色ツインテールの少女。左胸には生徒会を表す四つ葉のクローバーの校章がついている。二人目は赤髪の編み込みの少女。この子にも生徒会を表すクローバーの校章がついている。


「紹介するわ。彼は如月君に勝った赤城誠一郎くんよ」


中にいる三人に誠一郎の紹介をする。そして誠一郎は頭を下げる。顔を上げて三人の顔を見ると、一人の男に止まった。そして目が合うや否や


「あー、お前は!」


「あっ、さっきの」


同時に指を指す二人。それを見て生徒会長が二人の近くに来る。


「ここではやらないでね」


二人に釘をさす生徒会長。


「わかってますよ会長」


「やりあうつもりもありません」


その生徒を近くでしっかり見ると背が大きいことがわかった。髪は茶髪で目は赤い。左胸を見ると二人に付いていた校章がない。


「会長。なぜこの方は校章が付いていないのにここに入れるんですか」


素朴な疑問を口にする。そして生徒会長はとんでもないことを口にする。


「彼は生徒会のメンバーよ」


生徒会以外のメンバー、すなわち誠一郎、エリス、正春、政弘の四人が一斉にフリーズした。

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