第19話 各々の課題点

四時限終了後、食堂。誠一郎の目の前にはクラスの学級委員長がいる。今日はクラスの女子と食べるということで一人飯にしようと思っていたとき、一緒に食べないかと誘われて了承したしたため今に至る。


「すごい量食べるな」


誠一郎の皿を見て呻くように言った。学級委員長の皿を見ると誠一郎ほどではないが、量はまあまあある。


「委員長だってその体に似合わない量頼んでるだろ」


「まあ、俺の場合は食っても太らない体質だしな。俺としてはどうやったらお前の腹にそんなに入るのか不思議なくらいだ」


「俺の場合は授業終わったあとにトレーニングとかしてるしな。ついでに覇王剣祭もあるし」


「あ、そうだ。覇王剣祭で思い出した」


左手の上に右手をポンと置いて言う。


「覇王剣祭何に出るんだ」


「俺は、どっちも出るけど」


それを聞いて、委員長が目を見開く。驚いたのは個人戦に出るからではない。ニ対ニの方にも出ると言ったためだ。


「待てよ。個人戦は兎も角、ニ対ニは誰と出るんだよ。俺らのクラスに勇気のある奴なんていないし、他のクラスだって俺らなんかは見向きも・・・」


委員長はここまで言って言葉を切る。そして、心当たりがあるのか口を数回パクパクさせると


「ま、まさか俺ととか言わないだろうな。一対一は出るけどニ対ニはちょっと自信ない」


「大丈夫、エリスと出るから」


「なんだ、そうか。エリスと出る・・・ってはぁー!?お前、マジで言ってんの?エリスってあのエリス・ラティアークだぞ!イギリス王家の王女だぞ、数少ないAランクの一人だぞ!」


「出るってそりゃエリスしかいないだろ」


「バカ言うな、お前じゃ足手まといになるだけだって」


信じられないとばかりに大声で叫ぶ委員長。声が大きいため、周りを見回すと周りはFランクばかりだ。


「あの人バカなの?」


「Fランクと組んでくれる人なんているわけないだろ」


あり得ないと周りから嘲笑される。


誠一郎が顔貸せと手招きする。委員長が顔を近づけると誠一郎も顔を近づけると


「ここからの話は秘密な。俺はあいつと

ルームメイトだ。それで、決闘もやって勝った」


「お前その話マジ?」


信じられないとばかりの表情で小さい声で聞いてくる。


「マジ。嘘だと思うなら今日の放課後闘技場こいよ。4時30分から練習やってるから」


「わかった。行く。もし嘘だったら殴るからな」


「この話はもう終わりだ。もう昼休み終わるから教室戻ろう」


話を終わらせると教室へと戻っていった。




その頃、物陰からある人物がこの話を盗み聞きしていた。



「これはいい記事が書けるぞ。FランクとAランクがチーム組むなんて前代未聞だなー」




「なんか噂されてるような」


「気のせいだよーそれよりもさ」





「う、寒気が。風邪ひいたか?」


「大丈夫かよ」


エリスと誠一郎は、二人揃って妙な悪寒を覚えたのだった。







そして放課後、闘技場。委員長が来ると四人の人物がいた。


・・・マジじゃん。本当にいるよ。偽物じゃない、本物だよ。




「ほな始めよか」


エリスと誠一郎、正春と政弘が向かいあって立つ。


「まずはパートナーの力量がどないなものか見てみよか」


そう言った正春が固有武装リベレイトを握ると空いている方の掌を前に向ける。

すると左手が灰色に鈍く光った。すると2メートルほどの人形がなにもないところから現れた。


「ほら、こいつは自立型やさかい。好きなように戦うてみな。誰から行くん」


「じゃあ、私から行くよ。統べよ斬鬼ニルヴァーナ


正春の作り出した人形とエリスが戦いだした。

先に動いたのは人形の方だ。手に持っているのは模擬剣。腰に差して突っ込んでくる。


・・・なかなかの早さだけど、誠くんの方が全然速い。これなら捌ける。


刀を相手の刀に当てるように鋭く振るうと


ガキィィィンと鈍い音が鳴る。自分が思っていたよりも重い感触が返ってきて顔を歪める。


「言い忘れとったがこいつはCランクレベルで作られてん。ほんで、力が強いさかい。力勝負じゃ勝てへんぞ」


残っている二人にそう説明してすぐに戦いを見始める。



少し進んでエリスは斬鬼の能力を使って戦っていて互角に見える。しかしエリスの方は相手の攻撃を受けるのに精一杯になっている。


対する人形は連戟を放っていてエリスを押している。そしてある一撃から形勢が変わる。人形が放った攻撃を空間の断層障壁で防ぐと、人形の体勢が空中で僅かに崩れる。それを見逃さなかったのだ。人形はなんとか体勢を立て直して足から着地しようとした。そして着地の瞬間


「武装奥義、破裂空撃レイジングブラスト!」


空間を破裂させた。破裂の真ん中に着地した人形は足が無くなって地面に倒れていた。


「エリスはん、お疲れ。次は誰がやる?」


エリスを労う言葉を正春がかけた。そして次は誰がやるのか問うと


「次は僕がやるよ。正春くん、いいよね」


石路政弘は正春に聞いた。否、暗に自分にやらせろと言った。


「別にええで。ほな始めよう」


そういうと先程の要領で人形を生み出した。しかし、今度は武器を剣ではなく籠手にした。


「悪の眼よ、邪眼イビルラガン


2試合目が始まった。2試合目は政弘から動いた。


「爆ぜよ」


一言発するとものすごい速さで人形に接近していった。


「速い・・・」


「そら速いやろ。まっさーは腕力と脚力の強化が得意やしな」


人形の方は、接近されないように移動しながら拳を振るって衝撃波を撃っている。それを悉く避けていく。だんだんと距離が縮んで行く。すると


「武装奥義、幻覚眼イリュージョンアイ


人形が周りを見回し始めた。まるで目の前の敵が見えていないかのように。そして


「はあぁああぁ」


気合いの声と共に正拳突きを繰り出す。そのまま人形に命中し飛んでいく。壁の方でピクピクと動いているが、やがて動かなくなった。


「おつかれ。最後は誠一郎やな」


誠一郎が返事をするよりも早く正春が人形をつくった。


「ほな、始めよか」


人形が先に動き出す。人形は今度は弓を使うようだ。人形は矢を一本放った。誠一郎はその矢を半身で避ける。そこから次は連続で5本放つ。


「赤城流剣技、五芒星!」


剣を面状に振るい5本の矢を全て斬り落とす。すると今度は上に矢を一本放った。すると空中で分解されて一気に地上に降り注ぐ。

誠一郎はゆらりと姿勢を崩すと流れるように移動する。その間、矢は一本も誠一郎に当たらない。


「体倒崩速」


「は?」


「体倒崩速を使うわ」


何を言っているのかと思い闘技場に目を向けるとちょうどものすごい速さで接近しているときだった。


「なに、あの速さ。目で追えへんかった」


「確かに。何をやったんだろう」


先程目にした光景に驚いている。


その視線の先で人形がバラバラになっていた。


「エリスさん。さっきのがなにかわかるの」


「うん。詳しくは分からないんだけど、体倒崩速っていう技みたい。体を前に倒すとその勢いでものすごい速度で走れるらしいよ」


私は出来なかったけどね、とエリス。

それを聞いた二人は自分にはできないと思ったのであった。


「全員終わったし一人一人の課題点を発表しよう」


誠一郎の提案に三人が了承の頷きを返す。

この中で戦闘について一番知識があるのは紛れもなく誠一郎だ。そのため、誠一郎が発表することになった。


「まずはエリス。流石Aランク。遠距離ではとても良い戦い方をしていると思うよ。障壁や衝撃波、武装奥義も完成度が高い」


誉められたためエリスは顔の表情を緩める。


だが


「問題は接近戦。エリス、君は自分、武器の能力に自信はあるかい?」


能力に自信を持っているかと聞かれて


「はい。この力は遠近両方とも優れていると思いますわ」


ハッキリと自信があることを伝えたエリス。

しかし


「なら俺から言えることは一つだけ。能力だけでなく、技も鍛えるんだ。今日の接近戦見て気づいたけど、エリスって本当は剣技何個か使えるでしょ。人形に攻め込まれていたときの体捌きが完全に剣士のそれだった。今からでも鍛え直せば十分使えると思う。寮に帰ったら流派について教えてくれる?」


誠一郎の言葉に、頷くエリス。次は政弘の番だ。


「次は政弘だけど、政弘は遠距離が苦手だよね。一番初めに距離を取られたとき一瞬だけスピードが落ちた。恐らく距離を取られたのが初めてなんだろう。大方、どうやって戦うのか悩んだとか。それだと自分と同じくらい、もしくは速い人に遭遇したとき距離を取られたら追い付けなくなる。そうなると、防戦になってしまうぞ」


適合者の中には弓とか銃を使う人もいる。そちらの方が数が少ないがそのぶん遠距離の方が強い。政弘は魔力制御が下手なため、あの固有武装の力の範囲が狭いのだ。


「政弘って魔力制御得意?ちがうよね。身体能力強化魔法を使ったとき、腕と足以外のところから魔力が漏れていた。特訓したらできるようになるから頑張ろうな」


反省会をしたところで観ると客席に戻ろうとした。すると


「なあ、エリスちゃん、俺とペア組もうぜ。こんなひ弱そうな奴じゃなくてさー」


と誠一郎の顔を覗きこむ。


「おい、こいつ。例のFランクの癖に覇王剣祭に出ようとしてるバカじゃねーか。お前みたいな雑魚が勝ち上がれる訳ねえだろ?家帰ってママのおっぱいでも吸ってろ」


「はぁー。雑魚なのは一体どっちかしらね」


呟いた直後、男の眉がピクリと動く。


「どう考えてもあのFランクに決まってるだろーが。FランクがCランクに負けるわけねーだろ」


「とにかく、まだ用事があるので失礼しますね」


エリスの手を引っ張ってその場を去ろうとする。すると


「おいおい。逃がすわけないだろ」


いつのまにか周りを囲まれていた。


「Fランク=雑魚の方程式なんて今時流行らないけどな。一体いつの時代だよ」


呟くが聞こえてしまったらしい。男が


「んだと?お前ら、Fランクなんか潰しちまえ!」


男が叫ぶと四人が同時にこちらにむかって突っ込んできた。






続く


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