第17話 明かされる過去

場所は学園長室。部屋の中にはソファーが二つあり、互いに向かい合うように置いてある。ソファーの一つには左から誠一郎、学園長、楓の順で座りもう一つは左からエリス、杏奈、正春で座っている。


「なぜ固有武装を持っていなかったんですか。よほどのことがない限り使えないなんてことはありません」


今ここであげた余程のことというのは魔力が少なすぎるとか逆に多すぎて使おうとすると壊れるとかそういったことだ。


「その質問は僕が答えます」


誠一郎が間に入る。そして固有武装を持っていない理由について話し始めた。


「僕は、生まれつき魔力が人より多くて固有武装を使おうとすると魔力量に耐えきれず武器の方が壊れてしまい使うことができませんでした。父親が使っていた刀型の固有武装があったんですが魔力に耐えきれず壊れる寸前で取り上げられました。

そこからは家の中には固有武装を置くことができなくなりました。なので正確には持っていなかったのではなく使えるものがなかったんです」


「なるほど。固有武装を持っていない理由はわかりました。ではなぜ、適合者に勝つことができたんですか。しかもAランクに。知っていると思いますが、適合者とそうでない者では力に差ができ未適合者は適合者に勝つことが難しいされています」


杏奈が言っていたことはすべて本当だ。固有武装のあるのとないのとでは、勝敗が大きく変わる。なぜなら異能の力ですらも媒介があると大きく発動速度が速くなるからだ。それをものともせず純粋な力で勝ったのだから相当手練れであることがわかる。あれほどの力をどうやって手にいれたのかを杏奈は聞いた。その問いも誠一郎が答える。


「僕は三歳で初めて剣を握り、その次の年には練習が始まりました。四歳で家宝の赤城流を何個か覚えてすぐに体術を教え込まれました」


赤城流とは、少し昔は使う者がいたが栄二郎の引退と同時に消えさったと言われる流派だ。赤城流には剣技と剣術があり、剣技とは剣の技のことで、剣術は剣技と体術を合わせたものだ。


「簡単に言えば努力してこの強さを手にいれたんですよ。僕がエリスに勝ったのは相手の倍以上の努力をしたからです。それ以外に勝てた理由なんてないと思います」


「確かにそうですね。しかし一番腑に落ちないのはそれじゃない。一番は君がなぜ川上家の体技を使えるのかという点です」


あのとき誠一郎が使ったのは川上家の体技だった。この体技は同じ家柄でも一部の人しか知らないものだ。この天王寺杏奈の旧姓は川上で当時から葉舞をつかっていた。そのためどういうものかを知っている彼女は誠一郎が使ったのを見て、疑問を覚えたのだ。

葉舞について問うと誠一郎がすぐに口を開く。


「先生は赤城栄二郎を知っていますか」


自分の父親の名前を出し、杏奈を見ると


「もちろん知ってるわ。あの人も葉舞を使っていたし、そもそも元世界2位だし」


杏奈が自分の父親を知っていたことに内心で喜ぶがそれを顔に出さずに


「僕はその人に教えられました」


杏奈が信じられないという顔でこちらを見つめてくる。先程も話したが、葉舞は川上家の伝統体技で、習得はとても難しく身体能力の高い者の中にしか使えないものだ。

それを知っているからこそ彼女は直も驚きを隠せない。


「実は栄二郎は僕の父親です」


父親が栄二郎であることに杏奈は驚き言葉を失う。それにたいして学園長と楓、エリスはすでに知っていたため特に反応はない。


そして


「母親は川上小百合です」


誠一郎の口から告げられた事実にさすがの学園長も片方の眉毛をピクりさせた。


「なるほど、そうでしたか。君が葉舞を使えるのは小百合さんのおかげなのね」


遠くを見て過去に想いを馳せているのがわかる。


「それにしても赤城栄二郎が誠一郎君のお父様だったなんてね・・・」


杏奈は呟くも誰にも聞かれていないみたいだ。


コホンと咳払いをひとつすると、杏奈が誠一郎に対してもっとも知りたいことを聞くために口を開く。


「それでは本題に入らせてもらいますね」


一言言うと他の人は静かになった。そして本題をきりだす。


「なぜそれほどまで強くなりたいと願うのですか?強くなりたいと願うのにはなんらかの理由がそこにはあるのでしょう」


誠一郎の目を真っ正面から見据えて問うと


「俺が強くなりたい理由は・・・」


誠一郎が口を開いた瞬間に学園長が間に入る。


「先生たちも無理に聞き出そうとするな。誠一郎にとっては嫌な思い出だろうから無理して答える必要はない」



珍しく誠一郎に答えるなと強くいう学園長。それにたいし真っ向から異を唱えた者がいた。


「待ってください」


エリスだ。無言でこちらを見る学園長。それを話の続きをしろととったエリスは


「誠くんは、今まで周りに隠していた想いを、過去を彼は頑張って私たちに明かそうとしてくれています。ここで先生が誠くんを止めてしまうとたぶん・・・いいえ、間違いなく二度と誠くんの想いを聞くことができなくなってしまう。それじゃあダメなんです。私は、少しでも彼の力になりたい。そのためにもっと彼のことを知りたい。ここにいる全員がそう思っている筈です」


だから


「彼の過去の話を聞くことを許してくださいますか」


そう言って頭を下げるエリス。数秒後には学園長と誠一郎以外の者たちが揃って頭を下げる。その思いが通じたようで一つため息をすると


「わかった。だが、一つだけ誓ってくれ。この先どんなことがあっても彼を拒否しないことを。そして、そのことを忘れないこと。それを誓うならもう止めたりはしない」


学園長の許可が下りたのを確認した誠一郎が


「俺は小さい頃、正確には4歳の時に目の前で母親を殺された」


それを聞いた杏奈と正春は表情を曇らせる。


「そのとき、力を暴走させてしまい母親を殺した二人を殺してしまった。そのあと楓と出会ってからは楽しい思い出をつくれた。


だけど


「楓との出会いから一年経ったとき、僕と楓は孤児院でテロリストに遭遇しました。

人質をとられていましたが簡単にことは解決しました。僕は彼女とであってからは昔毎日のように見ていた悪夢を見ることは少なくなりました」


ここまでのところで誰も口を挟む者はいなかった。全員が黙って話を聞いている。それほど誠一郎の過去に興味があったということだ。


「それも長くは続きませんでした。小学校5年のとき、またしてもテロリストに遭遇しました。昔もあったのですが今日はいつもと違っていました」


今まで暗い顔をしていた学園長の顔が険しくなってきた。それを横目で捉えながらも話すことはやめない。


「僕がこのことを知ったのは教室に戻ってきてからでした。今までのテロリストとは違う点がありました。それは、首謀者格が固有武装を使っていたことです。このとき固有武装をはじめて見ました。この武器が放つ威圧感で動けませんでした。僕は目の前で一年生の時から同じクラスの親友を連れ去られました。僕は今でも後悔しています。もっと力があれば親友を守れたと。僕が遭遇してきた事件はいずれも一つの組織によるものでした」


ここにいた全員が分かってしまったのだろう。しかしここでも口を開くものはいない。


「すべての事件は差別派が裏をひいていました。これを知って僕は差別派に復讐することを決めました。僕のような人が一人でも少なくなるように、そして自分の為に。差別派が大きな組織なのは知っています。それでも一度決めたことは守りたいんです。今まで続いてきた差別派との戦争を終わらせるための強さが欲しいんです」


誠一郎が強くなりたい理由を話すと杏奈が口を開いた。


「学園長が隠したかったことはこれですね」


静かな声で問いかける杏奈。無言を返すと


「立派な理由だと私は思いますよ。私も差別派との戦争を終わらせるために力を欲したのですから。それよりも知っていたのは学園長だけではありませんよね。おそらくは黒野さんも知っていたのではないですか」


突然話を振られたことに一瞬驚いた顔をするがすぐに頷く。


「わかりました。私も力を君に貸します」


「誠一郎の事情はようわかった。わしも力を貸すで。まあ、実際にわしも差別派はいけ好かへんしな」


杏奈と正春は誠一郎に力を貸すと誓う。


「誠一郎のためならどこでも、地の果てまでついていきますわ」


エリスも一緒に戦ってくれると言い、楓も無言で頷いた。


「話がおわったのなら退室しますね、学園長。用事があるので」


「話終わったならわしも退室すんで。ええかいな?わしも人待たせてるし」


杏奈と正春は用事があるということで退室した。二人が退室すると


「あの二人は間違いなく力を貸してくれる。だけどエリスさん、あなたは本当に最後までついていきますか」


学園長が問いかける。それも無理はないだろう。なぜならエリスは王族だ。結婚相手は貴族などの家系から選ばれるのが常識だ。それは日本でも同じだ。


「私は何があっても最後まで誠くんと歩んでいきます。どうしてもダメなのなら家を捨てる覚悟もできてます。姉様が王位継承権大1位なので王位に就くのも大分先ですし」


エリスが力強く宣言した。それを見ると楓には何も聞かない。なぜなら楓には親がいなくて、孤児院出身だからだ。

ある程度の自由は保証されている。


「私には何も聞かないのですか」


よほど言いたいのだろう。目が光っている。

学園長がため息を一つすると


「念のため聞くが楓は・・・」


「私は誠一郎についていく。なにがあっても離れない。誠一郎と離れるのなら死んだほうがまし」


大きな声でエリスにも聞こえるように言った。学園長と誠一郎がそろって息を吐く。


「お前らの覚悟はよくわかった。ならお前ら三人は覇王剣祭に出たほうがいい。優勝すれば、好きな就職先に就けるしな。好きなところというのは騎士団も含まれるぞ」


「言わなくてもわかってます。僕はエリスと団体戦に出ます。団体戦だけでなく個人戦にも出る予定です」


最初から出るつもりだったので即答すると


「わかった。それなら頑張れよ。一筋縄ではいかないだろうけどね」


そう学園長がいうと、誠一郎は頷き


「それでは失礼します」


学園長室から出ようとしたとき


「そういえば、西門くんにできれば君にも覇王剣祭に出て欲しいと言っておいてくれ」


「わかりました」


今度こそ学園長室を出ていった。


「帰ろうかエリスと楓」


誠一郎の右腕に楓、左はエリスがくっついている。二人が腕を絡めてくるのでそれに応えながら三人で学園長室を後にした。


そのあとエリスと二人でご飯を食べに行き家に帰ってくるとそのまま二人寄り添ったまま夢の中へと意識を落としていった。





続く





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