第16話 世界1位

試合開始、誠一郎争奪戦が幕をあげた。



試合が始まると、楓は右手を前に出す。そして青色の光が右手に集まり指輪を形成した。その指輪から水が出てきて鞭を形成する。


それを見るやエリスは闘技場の床を蹴り突進する。

すると楓は鞭を剣に作り替えた。接近戦をするようだ。


エリスは鞘に手を掛けると高速で抜き放つ、本来なら斬り上げになるところを手首の角度を変え横薙ぎにして楓を攻撃した。


しかし楓は後方へ大きく跳んでこれを回避。

着地するとすぐさま剣を振るう。すると剣から水の衝撃波が出た。


「・・・!?」



楓の頭の回転とその力に驚くが、楓から距離があったおかげで剣を振るう時間はあった。だから飛んできた衝撃波を剣で斬り裂いた。


そして切り裂くとすぐに空間転移を発動する。一瞬で楓の背後をとり、上段から剣を

振り下ろす。


楓は反応できずただつっ立っていた。

それを見て、決まったと思ったエリスだが違和感を覚える。剣で斬ったはずなのに明らかに感触が違う。みると、液体に姿が変わっていた。それを見てエリスは理解する。

自分が斬ったのは水の人形だったのだと。


楓は大きく後ろに跳びエリスから距離を取った。


「私がAランクと知っていても決闘を受け入れたから、ただのバカなのかと思っていたけど、予想以上に武器を使いこなせている。

なるほど、本気で戦った方がいいですわね。

今まで手を抜いていたことは謝ります。ここからは本気で戦わせてもらいます」


今までの思い違いと手を抜いていたことを謝ると、剣を再び握った。


そしてエリスは剣を握ったまま楓に向かって駆け出した。鞭をエリスに振るう。エリスは腰だめの体勢に入る。横薙ぎを放とうとしたとき、楓を見ると鞭を振るおうとしていた。


・・・こんな距離からなにを?


そう思ったが、なんと鞭が伸びてきている。


「・・・!?」


鞭が剣を狙っているのに気付いたエリスは剣を握る手に力を入れる。その瞬間、剣に水の鞭が絡み付く。そして、手に力を入れていたが抵抗虚しく剣を絡み取られてしまった。すぐに腕を剣の柄に空間転移させて柄を握った。そして横に剣を振るい、鞭を切断した。


「なっ・・・!?」


今までエリスばかりが驚いていたが今度は楓が驚く番だった。


「なかなかやる。でも次で決める」


そう言った直後、楓は魔力を解放した。

指輪が青く輝きだす。そして青く光っている指輪を着けた右腕を胸に置く。すると虚空に水の刃が生み出される。そして胸に置いていた右腕を前に出した。


「武装奥義、鋭水斬撃」


そう言った瞬間、浮いていた水の刃が一斉にエリスに向かって飛んでいく。


エリスは自分に向けて飛んでくる水の斬撃を見る。その数はおおよそ100本。この数すべてを相殺することは不可能と悟ったエリスは魔力を解放した。


だが、楓とは違うところがある。それは、武器は全く光っていないことだ。代わりにエリスの体全体が緑に輝いていた。

エリスが両腕を広げる。


すると、緑の光がさらに明るく輝く。


そのまま、なにも起こらない。


観客は誰一人しゃべらず闘技場を見ていた。それもそのはず、楓が解き放った衝撃波が緑の光に当たるとすべて


ガキーン、という音と共に弾かれているからだ。


すべての衝撃波が弾かれている間にエリスは剣を上に大きく振り上げていた。そして、すべての衝撃波を弾いたあと剣を振りかぶったまま


「武装奥義、一閃の空撃パルティナロクス


と呟き剣を振り下ろす。すると空間が裂けて大きな衝撃波が楓を襲った。楓は大量の水を、前につき出した手から放った。


大量の水と、衝撃波がぶつかり合う。水が衝撃波によって跳ね返されるとそのまま楓に衝撃波が直撃した。脳を揺らされた楓はそのまま、うつ伏せに倒れた。


「そこまで!勝者エリス・ラティアーク」


そうして結果はエリスの勝利となった。


試合後、意識を失った楓の様子を見に行くことにした誠一郎。廊下を歩いて保健室へと向かう。そして保健室の扉の前に立ち、ノックをする。


「どうぞ」


楓のものではない声が聞こえた。

部屋の中に足を踏み入れるとそこには、


「あら、赤城君じゃない」


誠一郎の担任、天王寺杏奈がいた。楓の寝顔を見て安心した誠一郎は杏奈に向き直り


「何しているんですか。楓の担任ではないのにここに来る理由なんてないはずでは」


訝しげに問う誠一郎に対し、杏奈は、


「私はここの学園の教師ですよ。居てはだめかな?」


と首をかしげる。


「あ、そういえば君に聞きたいことがあったわ。ここじゃ彼女に迷惑だから私の部屋に来てくれる?」


「・・・わかりました」


肯定の声をかける。早くいきましょう、と歩き出そうとすると


「エリスさんにも聞きたいことがあるし呼んでもらえないかな」


「わかりました」


眉間にしわを寄せながらも杏奈に続いて歩き出した。




そして杏奈の部屋の中。

部屋の中に入った第一印象は、


・・・きれいに整頓されているな。

と感心する誠一郎。


「さて、早速本題に移りましょう」

と前置きをひとつして、喋り始める。


「赤城くんとエリスさんの決闘を見せてもらいました」


最初から爆弾発言が飛び出した。


・・・おい、あの学園長、動画なんて撮ってたのかよ。


「あら、学園長から聞いてなかった?」

「聞いてないですよ。初耳です」


・・・神崎さん、言ってなかったんですか。


「まあ、話を戻しましょう。結果を見ると、赤城くんの勝ちみたいね。しかも彼はFランクだそうですね」


と誠一郎に聞くが、既に知っていた杏奈は、誠一郎が返事するよりも早く、喋り始める。


「詳しくは、魔力量F、魔力制御A、攻撃力F、防御力Fと聞いています。それに対し、エリスさんはAランクで詳しくは魔力量A、魔力制御B、攻撃力A、防御力B+ですね」


「あの人、口軽いな」

「口軽いですわね」


二人揃ってがっくりと肩を落とす。


「確かに軽いですね」


杏奈までもが同じ結論に至ってしまった。

三人揃ってため息を落とす。


「まあ、しきり直して。FランクがAランクに勝つなんて前代未聞っていうわけ。Aランクに勝った赤城くんに興味を持った私は、君とハンデつきの模擬戦をしたいのです。いいかな」


誠一郎は、即座にこの模擬戦のメリットについて考える。この試合のメリットは、今後差別派と戦っていくために必要な力がなんなのかを確かめられることと、自分の力が、世界一位にどれだけ通用するのかを知ることができることだ。それを思った誠一郎は


「わかりました。それでは二日後でいいですか?」


「私はいつでもいいよ」


こうして二人はハンデつきの模擬戦をすることになった。




そしてハンデつき模擬戦当日の放課後。

二人は訓練場で相対していた。

観客席には、エリスと学園長の二人だけ。


学園長が立ち上がり、拡声魔法を使った。


「今から、赤城誠一郎対天王寺杏奈のハンデつき模擬戦を始める。天王寺杏奈はこの戦いで固有武装の能力をひとつしかつかえない。もし、二つ以上使用した場合敗北とする。それでは始める。バトルスタート」


試合開始と同時。


誠一郎は体を前に倒し、体倒崩速を発動。すぐに技剣テクデータを右手に呼び出し、剣先を相手に向けたまま腕を引く。


杏奈は左手でピアスに触れる。すると右手に青い両刃の剣が出てきた。そして、誠一郎の首が来るであろうところに剣を置くように横薙ぎを放つ。


しかし


「・・・」


誠一郎に焦りはない。疾走突きの構えからそのまま剣を下から振り上げ杏奈の剣を上にかち上げた。

杏奈はかち上げられた剣を手放し魔法剣を生成した。そしてすぐさま左手に握られた剣で

横薙ぎを放った。

その剣は、追い討ちで放たれた斬り上げを弾いた。

その後杏奈はバック転で誠一郎から距離を取った。


「Aランクを倒した実力は本物のようね。

それほどの力を持っていながらなぜFランクなのか気になるわね」


「それは秘密です。僕にだって秘密の一つや二つくらいありますよ。そんなことよりも早く続きをやりましょう」


そう提案すると杏奈は口を閉じて魔法剣を消す。そして再び青い剣を呼び出した。


杏奈は走り出した。それを見て誠一郎も走り出す。杏奈は誠一郎の少し前で一つ加速して大きく踏み込む。


「如月神刀流、三つ又!」


この技は一回の踏み込みで三回の突きを放つ技だ。大きく踏み込んでいるため、威力は高いが、突きの速さはそれほど速くはないため避けるのはそれほど難しくはない。


その三連突きに脅威を感じた誠一郎は身体能力強化で脚力を強化。大きく後ろに跳んだ。


次の瞬間、杏奈の姿が掻き消えた。

概念裏穏ロスコンセプティアを使用したのだ。概念裏隠とは、概念の裏側に存在を隠す能力のことだ。相手のあらゆる能力が自分に届かなくなるが自分の異能も届かなくなる。さらに少しでも制御をミスると隠すを通り越して消えてなくなってしまう。


誠一郎は警戒を高め、脚力強化から動体視力強化へと力を変えた。目を凝らすが姿はおろか気配すらも感じられない。

静かに時間が過ぎる。


杏奈は誠一郎に気づかれないまま、背後に移動した。そして概念裏穏を解いた。

その瞬間、気配に気付いた誠一郎がそちらへと振り返る。


「如月神刀流、三ツ又!」


ギリギリのところで羽舞はねまいが発動。なんとか全て避けることに成功する。


「・・・!!」


概念裏穏からの三ツ又の連続技を避けられるとは思っていなかったのだろう。驚きと共に目を見開く。そして動きが止まった。


「・・・」


そんな隙を見逃すはずがない。すぐに大きく踏み込むと、技剣テクデータが光りそれを受けて誠一郎は


「はあぁあっ!」


気合いの声と共に三ツ又を繰り出す。


杏奈は羽舞を使用し攻撃をかわす。

杏奈は、再び右足で踏み込み三ツ又を繰り出す。さらにそのうえから三つの連戟を放つ。誠一郎は羽舞で二つを避けたがその先に回り込まれて三つ目の剣戟をまともに受けて吹っ飛ぶ。その先で誠一郎は気を失っていた。


学園長の拡声魔法が響く。


「ここまで。勝者、天王寺杏奈」


こうして模擬戦は終わりを告げた。




「・・・んっ」


目が覚めると保健室にいた。体を起こして回りを見回す。そこにはエリスと咲羅、そして先ほど戦った、担任の天王寺杏奈がいた。


「目は覚めました?」


先に声をかけたのは意外にも天王寺杏奈だった。誠一郎はエリス、咲羅の順で顔をみて

「ごめんな、心配かけて」


「別にそれはいいですわ。それよりも世界一位相手にとてもいい試合でしたわ」


誠一郎の手を握って嬉しそうに言う。


「とってもすごかった」


咲羅も逆の手を握ってやはり嬉しそうだ。


「赤城くん、それだけ元気なら動けるわね?」


「今からどこに行くんですか」


「三時間ほど前に、神崎先生から赤城くんとエリスさんをつれてきてほしいって頼まれてるんだよね。もう動ける?」


時間をみると7時30分になっていた。


「学園長室へ行くわよ」




四人で学園長室の前に立った。そして杏奈が扉を三回ノックする。


「どうぞ」


入室を許可されると四人は学園長室へと入る。学園長はいつもの椅子に座っている。


「誠一郎くん、すごかったわ。ハンデつきとはいえ、とても面白い試合だったわ」


学園長も絶賛しているので本当のことなんだろうと納得する。


「さて、赤城くん。早速だけど、再検査するわよ」


無理もない話だろう。Fランクが世界一位と戦い、しかもいい勝負を繰り広げた。そんなことが知れたら再検査があとを絶たなくなってしまう。ということで誠一郎は再検査されることになった。


再検査が終わり、再び学園長室へ戻り結果を伝える。


「再検査の結果はAランクです。詳細は魔力量A、魔力制御A、攻撃力A、防御力Fだったわ。しかも魔力量に至っては過去最高よ」


「あの学園長。彼はFランクだったのではないですか。どうして急にAランクになったのですか。説明を求めます」


「わかったわ。教えます。彼がFランクだった理由、それは検査したときに彼が固有武装を持っていなかったからなのです」


真実を知った三人は言葉を失う。


「そもそも、Fランクが、Aランクを相手に固有武装なしで勝ったなんて信じられません」


確かに杏奈の言う通りではある。FがAに勝った前例はない。

だが楓と学園長にはわかっている。彼にはある秘密があるからだ。


「その問いには僕が答えます」

誠一郎が間に入ってきて秘密を喋り出した。


ついに強さの秘密が明らかになる。









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