第15話 誠一郎争奪戦
廊下では既に楓の姿はなく、エリスだけが残っていた。誠一郎は声をかける。
「エリス、出てからどうなった?」
「うーん、変なことはされなかったけど絶対に誠一郎は渡さないって言われたわ」
楓は誠一郎のことになると、とても積極的になる。そのことをしっている誠一郎は
「あいつはなかなか強いぞ」
強さについて教えると拳を胸の前でかまえて頑張る、と一言言った。
「ところで楓の武器について教えてくれない?勝ちたいから」
どうしても楓に誠一郎を取られたくないエリスは不正をしようとしている。
だが、
「決闘に勝って俺と彼女のままでいたいというのはよくわかる。だけど楓だって同じように俺のことを好きでいてくれてる。だからエリスだけ特別扱いって訳にはいかないんだよ」
楓が自分のことが好きだということは知っていた。だが、エリスも自分のことが好きで自分もエリスのことを好きだった。だがどちらとか選べないのだ。そんなこととは知らないだろう。だが納得はしてくれたみたいだ。
「そうですわね。ごめんなさい、無茶言って」
そういうと頭を下げた。
「別に責めてる訳じゃないよ」
というとエリスの頭を撫でる。エリスは気持ち良さそうに目を閉じた。
決闘当日。エリスはいつも通り、6時30分に起床。それから少し遅れて誠一郎も起きた。
「おはようエリス。今日は決闘だね。調子はどう?」
自分の朝食をつくりながら聞いた。
「うん、大丈夫。これなら勝てると思いますわ」
そう言って笑顔になるエリス。つられて誠一郎も笑顔になった。
「前の決闘と同じで学校が終わってからやりますわ」
前、それは誠一郎とエリスが決闘をしたときのことを指している。そのときは誠一郎が勝利していた。
その時とは関係も変わって嫌な思い出では無くなっていた。
「応援するよ。頑張ってね」
そう言って手を握る。エリスは元気にうん!と返事をすると誠一郎は手を離した。
二人は学校へ向かう。その途中で楓と
出会った。
「誠一郎、おはよう」
ピンク色の髪にアホ毛をもつ少女、楓は誠一郎の正面に回って朝の挨拶をした。
「楓か、おはよう」
目の前に楓が現れたのに気づいた誠一郎は挨拶を返す。
楓は誠一郎の隣に並ぶ。それを見たエリスは、
「誠くん、私先に学校に行ってるね」
と一言誠一郎に声を掛けるとエリスは空間魔法のひとつである
「なあ、楓」
右腕に抱きついている楓に声をかける。
声をかけられた楓は抱きついたまま顔を上げる。楓の身長は157cm、誠一郎の身長は175cmで20cmほどの差、必然的にからだの小さい楓が上目遣いでこちらを見ているが、実際は上目遣いを通り越して見上げる形になっている。誠一郎は動揺しながらもなんとか
「楓は本当にエリスと決闘するの?」
と声をかける。
「当たり前。あなたと付き合いたいということも、ペアになりたいということも本気。だからあたしはそういった関係になるために決闘で勝ち付き合う権利とペアになる権利を得る」
誠一郎は楓の覚悟を聞いて思う。
・・・これは彼女たちの戦いだ。俺は最終的にどうなるかを見届ける。
そう考えて傍観者になることにした。
「そうか。その覚悟が本物か見るよ。もうそろそろ行こうか」
楓は右腕から離れる。温もりが残ったまま二人で並んで学校へ向かった。
学校に着き下駄箱で楓とは別れた。
二時間目の放課。クラスの男子に声を掛けられた。
「なあ、赤城」
声を掛けられ横を見た。声を掛けたのは秋山という同じクラスの男子だった。メガネ魔法師というあだ名を持つ生徒だ。
「なんだ、秋山か」
こいつは固有武装こそ持っていないが、魔法の腕はBランクにも引けをとらない。
「お前とあの女の子はどういう関係だ。仲が良さそうだが」
「ああ、俺の幼馴染みだ」
「彼女とかそういう関係か?」
「いや、少し違うけど、ペアになってくれ
って頼まれた」
「ということは、覇王剣祭に出るのか。まあ、がんばれよ。おれは個人戦に出るから」
それだけいうと、誠一郎から離れさきほど一緒にいたグループへと消えていった。
そのあとに三時間目の始まりの鐘が鳴り授業が始まった。
授業中、誠一郎は決闘のことで頭がいっぱいだった。今は魔力についての講義中だ。
・・・エリス、ちゃんと授業に集中できているかな。できていればいいけど。
エリスのことを考えていた。そんなこととは知らず、当のエリスはしっかりと授業をきいていた。だから考え事をしているのは誠一郎だけだ。
決闘ではエリスと楓が誠一郎とのペアとお付き合いをかけて戦う。勝った方が覇王剣祭でパートナーとなるのだ。
実のところは楓には勝ってほしい。なぜなら
・・・あいつは優しいもんな。
エリスは明るい感じだが優しい性格のため切りつけたりをしない。だが、誠一郎の近くにいる以上嫌でも差別派と戦わなくてはならなくなることも十分にある。そうなったとき、エリスは力の出し惜しみをしてしまうだろう。エリスには死んで欲しくない。だから、今のうちに戦いのときくらいは甘さをすててもらいたい。そう考えている誠一郎は・・・
「おい、赤城。ちゃんと聞いてるか」
魔力について教える講師、青山荘司が魔力を漏らしながら聞いてくる。正直に言って考え事をしていて聞いていなかった。だが、
「いいえ、聞いてました」
この人の授業を聞いていないと、かなりヤバイ。だからさらっと嘘をついた。
「なら、さっき俺が言った質問の答えをきかせてもらおうか」
嘘に気づいているのか、威圧しながら聞く。
「ええと、固有武装を使うには魔力が必要か、ということですか」
「バカか。全然違うわ。やはり聞いてねえじゃねーか」
そういうと拳骨を食らう。この拳骨は鉄板がへこむほどの威力がある。それも魔力も少しも使わずにだ。頭にたんこぶを三つこさえたまま、午前の授業が終わった。
購買に行ってパンを買うと、屋上へむかった。屋上は誠一郎の一人飯の場所だ。
屋上へ足を踏み入れると、先客がいた。エリスだ。
「あ、エリス。君もここで食べるの?」
誠一郎がここに来るのが意外なのか、エリスは目を丸くしている。
「そうだけど誠くんはなぜここに?」
「俺はいつもここで一人で食べてるんだ」
さらっとぼっちですよアピール。しかしそれには気づかないエリス。
「これからここで一緒に食べてもいい?」
エリスがこちらに近づいて聞いてくる。
頭を撫でながら
「いいよ、一緒に食べよう」
そういうとエリスは元気になった。今気づいたがエリスのしゃべり方が、お嬢様から普通のしゃべり方になっていた。
「そういえばあのあと、どうなったの?」
あのあとというのは朝のことだ。嘘をいうことはない。本当のことを話そう。そう思い、口を開く。
「楓に本当にやるのかと聞いたら、そうだといった。エリスはどうなの。戦うのかい」
何て言うのかは大体想像はついている。念のために聞いた。
「当たり前ですわ。私は譲る気は毛頭ありません。必ず勝ってみせるわ」
いつものように、ふんわりとした雰囲気ではなく戦う雰囲気をだしていた。
「戦いにおいて情けはいらない。俺の幼馴染みだが遠慮するな。ちゃんと戦えよ」
頷く。それを見た誠一郎は安心した。
「もう時間もないから戻るか」
戻ることを告げると二人で屋上をでた。そして各教室へと戻っていった。
昼からの授業は、五時間目もまた怒られたがそのあとは、平和に時間はながれ、放課後。
エリスと楓の決闘があるため、訓練場に向かう。観客席には学園長と天王寺杏奈、そして、西門正春がいた。
「どうしてここに?」
正春がいることにビックリした誠一郎はすっとんきょうな声を上げる。正春は頭を掻きながら、
「実は楓と同じクラスなんよ」
「だからって何で来たんだ関係ないだろ」
楓と同じクラスにしろ、こんなことになってるなんて知らないはずだ。おかしいと思っていると、種明かしをしはじめた。
「わしは耳がよくてな、授業中に声が聞こえたんよ。独り言やったから、小さい声やった。かろうじてエリスという名前と決闘という言葉が聞こえたから、もしかしてと思ってな」
想像力が必要な固有武装をもっている正春だから思い至ったのだろう。心のなかで称賛の声を送る。
一番前の席に誠一郎、正春、学園長、天王寺杏奈が座っている。後ろを振り返ると中々の数の生徒が集まっていた。それだけ、この決闘を知っていたということだ。学園長を見ると薄い笑みを浮かべていた。
・・・学園長、やりやがったな。
そう思ったが声には出さない。
すると学園長が立ち上がった。ざわめき出す生徒たち、学園長が魔方陣を展開した。
そして声が響き渡る。学園長が使ったのは拡声魔法だ。ざわめきが止まる。
「今から、エリス・ラティアーク対黒野楓の決闘を開始します。勝敗は、戦闘不能、または自己申告の降参で決まります。それでは始めます」
再びざわめき出す。そして声が響き渡る。
「バトル・・・スタート!」
こうして、二人の誠一郎を賭けた戦いが幕を上げた。
続く。
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