第14話子供の強さ
・・・なんだあの子供は。
さきほど扉と一緒に吹っ飛ばされてきた男の呟きの意味について考えていたテロリストのリーダー。
テロリストたちは混乱していた。内通者の情報によると、今日は院長も赤城栄二郎も孤児院を離れていて戦える人物はいないということだった。
なのに実際はどうだ。今、どこの誰かともわからない誰かに武器をもっている自分達が押されている。これは明らかに異常事態だった。
誠一郎は、扉を開けて中に入った。この部屋はすぐに人が入ってこられないよう部屋が右側と左側にそれぞれ4つずつあり、その奥に扉がある。そしてその扉が遊戯室になっている。
・・・あそこだな。
見ると遊戯室の扉が外れていた。誰が見てもあそこが怪しいとわかる。
だから誠一郎は中の人に気付かれないよう足音を殺したまま遊戯室へ向かう。
その途中、後ろで手を組み手錠を掛けられている先生と子供たちが見えた。その近くにはテロリストとおぼしき武装した男たちがいた。
誠一郎に気づくと、その中の男が
「まだいたのか!」
と大声をあげる。そして、すぐにリーダーの男もそれに気付き、
「おい、お前!あれで最後じゃなかったのか!」
咎めるような大声をあげるとすいませんと男が頭を下げていた。
「まあいい。とにかくそこのチビをこちらに連れてこい」
とテロリストの一人に命令した。
そのテロリストは誠一郎に近づいていき後頭部に銃を突きつけて歩かせた。
黙って指示に従い歩き出す。そして、手錠を付けるために誠一郎の前に立った。そして体を近づけたとき行動を起こした。
腰を落とした。そして左足を前に出す。すぐに右足首を捻る。肩を回した。呼気の全てを腹に溜める。
この一連の動きが繋がることで勁を生み、大きな力を生み出す。
この体技は拳勁といい、密着状態で大きな威力を発揮する。使い方は能力者にとってはとても簡単でなおかつ威力も高いため、多くの直接攻撃能力者が使う体技のひとつだ。
誠一郎に手錠をかけようとしていたテロリストの一人はこの体技を受けて後ろへ吹っ飛んだ。
その大分後ろにいたリーダーとおぼしき男も巻き込まれ一緒になって吹っ飛ばされる。壁に激突し崩れ落ちた。意識はあるみたいで大きく咳き込む。息を整えると
「クソ、お前ら!殺しても構わん。撃て!」
躍起になって叫ぶと残った四人がそれぞれサブマシンガンを撃ちまくる。
誠一郎は柔らかい笑みを浮かべるとゆらりと姿勢を崩し羽根が空を舞うようなステップでマシンガンの弾丸を避けながら一歩、また一歩と距離を詰める。マシンガンを撃ち続けるがそのどれもが当たらない。やがて弾がなくなると弾を込め始めた。そのタイミングを狙って接近し四人の体に拳の衝撃波を当てて気絶させた。
気を失ったのを確認すると後ろを振り返る。するとさっきまで倒れていたリーダーの男が消えていた。
「おい、そこのお前!こいつがどうなってもいいのか!」
と声が聞こえた。声のしたほうへ顔を向けるとさっきの男が楓の頭にピストルを当てていた。楓は無表情だが明らかに怯えているのがわかる。なぜなら唇と体が震えているから。
その場で立ち止まり動くのをやめた。
「おい、どうした!諦めた・・・」
言葉の途中でリーダーの男は後ろに倒れそのまま気を失った。
誠一郎の父親、栄二郎が手刀で意識を奪ったのだ。
そして緊張の糸がきれ、ため息をつく大人。
二人で職員と子供の手錠を開けると子どもたちは職員に駆け寄り泣き出してしまった。
楓も誠一郎に近づき抱き締めると大声で泣き出した。手を背中に回してさする。
栄二郎は誠一郎に近づき
「よくやったな、怖かっただろ?」
といい、頭を撫でられる。確かに怖かったため払いのけることもしずにされるがままになる。
「ところで誠一郎。中平先生は?」
聞かれるが
「知らない、今日は来てないね」
と首を振る。
栄二郎はそうか、と呟き遊戯室から出ていった。
遊戯室から出ていった栄二郎はそのまま職員室へと入る。すると院長の机の上に一枚の封筒があった。それをみると封筒には辞表と書かれていた。裏をみると中平と書かれていた。それをみて考えようと思ったが
事件があった後で職員も子どもも疲れていると判断し今日はこれで帰ろうと思ったのだった。
後日院長から連絡があり机の上に中平の辞表があったと告げると、中平は強盗未遂で捕まったと連絡を受けたのはまた別の話である。
「これがあたしと誠一郎の馴初めの話」
と楓が言うとエリスが
「誠くんって昔からそんなワケわからない強さだったんですのね」
関心の声を漏らす。
さきほど名前がでた体技はどれもが小さい時に父親から教えられたものだった。
今では昔より多くの体技を習得し身体能力強化の力も手に入れ固有武装を手にいれるまでに至っている。
ついでに剣の腕もなかなかのものだ。
「ていうかさ、こんな話した程度で私が本当にごめんね譲るわなんてことになると思ってるんですの」
と声を荒らげる。楓は
「え、譲ってくれるんじゃないの?譲ってくれると思ったからこんな話までしたんだけれど」
といっていることが分からないとばかりに首を振る。
「何言ってるんですの。そんなんで本当に譲ってもらえたら譲った人はただのまぬけですわよ」
呆れたようにエリス。
「もういいですわ、だったら決闘よ。これに勝った方が誠くんの彼女と学園祭のパートナーってことね」
楓に提案するとエリスにちかづいて真っ向から見据えて
「わかった。その決闘、受けてたつ」
と今ここでエリス対楓の誠一郎争奪戦が決まった。争奪の対象となる誠一郎は
「俺の意見はどうなるんだ」
と小さく呟いたが恐らく二人には聞こえていないだろうと諦めたのだった。
決闘のことを学園長に言いに行くということで誠一郎は二人と一緒に学園長室へ向かった。
学園長室
コンコン、ドアをノックする。
「はい、どうぞ」
中から入室を促す声があった。三人は部屋の中に入りそのまま学園長の机の前に立つ。
パソコンを触っていて声をかけられない。三人は立ったままでいると
「あら、あなたたち。どうしたの」
パソコンから手を離し、画面からも目をはずして問いかける。エリスが口を開く。
「決闘の申請にきたんですが」
「どうしてそういう決断に至ったのかおしえてもはってもいい?」
口には出してはいないがなんとなく気づいている。誠一郎が真ん中に入っていてその両サイドが二人揃って不機嫌そうな顔をしているから何かあったのだろうとわかる。
「学園祭で俺とエリスがペアで戦うことになったんですが、エリスと楓のどちらが俺のペアになるかでもめてしまって話し合いじゃとても決まらなくてどうせなら決闘で決めてしまえってなったんで」
ただでさえ機嫌がわるいのに変な言い方をしてさらに不機嫌になることを恐れた誠一郎は慎重に言葉を選んで事実をのべる。
「だいたいの事情はわかったわ。だけどそのようすだといつにするのかも決めてないみたいね」
神崎は机の上で手をくんでいた。その手を組み替える。前かがみになる。
「明日はちょっと許可できないから明後日でもいい?」
楓は黙ったままだったがエリスと誠一郎ははい、と返事をした。
「監督官は天王寺先生におねがいするからね」
そう一言いうと三人を退出させた。
「誠一郎、あなた大変ね。いろんなことに巻き込まれて」
一人になった学園長室で呟いたがその声を聞く者はいない。
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