第13話 転機





初めての出会いから一年が経とうとしていたある日、いつものように図書室で楓と話していると突然楓が黙り込んでしまった。たまにこういったことがあるため特に気にはしていなかったがいつまでたっても口を開かないのでなんかいつもと違うことに気が付いた誠一郎は


「どうしたの?突然黙り込んで。なにか嫌なことでもあった?」


すると、楓はすっと顔を上げた。


「どうしたの?突然黙り込んで。なにか嫌なことでもあった?」


聞こえていなかったみたいだったので同じ質問をすると


「別に嫌なことががあった訳じゃない。ただ」

と言葉を濁す。


「ただ?」

と鸚鵡返しで問う。


「あたしが何故ここにいるのか知ってる?」


ここの職員である栄二郎は何らかの事情を知っているはずだが栄二郎がここの職員であることを知ったのは1年前だ。今まででそういったことを考えたことは何度かあった。しかしそれはここにいる子ども達のプライバシーに関わる話だったため栄二郎に聞いていない。だから


「いいや知らないよ」

と言った。すると何を思ったのかふう、とひとつ息を吐く楓。そして


「そう」

と寂しげに一言だけ言った。その寂しげな声を聞いて


「なにかあったなら僕に言ってよ。出来るだけのことをするからさ」


誠一郎は困っている人を放っておけない性格で、困っている楓を見過ごすことはできなかった。そんな誠一郎の気持ちを受け入れたのか楓は静かに語り始めた。


「あたしがここにきたのは今から一年半前。あたしが4歳の時」


一年半前は誠一郎が父親の栄二郎に稽古をつけてもらい始めた頃だった。


「あたしは母親と父親の三人暮らしだった。だけどある日、夜遅い時間に家のチャイムが鳴った。なんだろうと思った父さんが家のドアを開けると武装した男が二人入ってきて父さんと母さんに襲い掛かった。父さんと母さんはあたしを守るために闘った。だけどあの二人には敵わず殺されてしまった。そしてあたしはあの二人に連れられてある場所に行った」

そして

「その事を思い出しただけ」

「そうか」

と一言いうと黙り込んだ。


その話を聞いて誠一郎は母親を殺されたときのことを思い出していた。そんな誠一郎の記憶と、楓が先程言っていた男達の犯行の手口が全く同じだった事に気付いた誠一郎は


「その男達って」


とハッとしたように叫んだ。その声にびっくりした楓が肩を震わせる。


「どうしたの?」

と楓がこちらを向いて問うた。


「まさかとは思うけど、男達が家に来たとき黒のコートを着てなかったか?」

と誠一郎が聞いたところ、楓は驚いたように


「え、何故そのことを知ってるの」

と聞く。


「実は僕も、一年前に母親を殺されたんだ。それも僕の目の前でね。そのとき僕は父さんに稽古をつけてもらい始めてからわずか半年しか経っていなかった。だから怖さで体が動かなかった」

そして

「男達が僕の方へと武器を向けてこちらへと向かってきた」


ここまでは楓の体験と誠一郎の体験で違うところはない。ただここから先は全く異なる結末を迎えるということを当事者ではない楓はしらない。


「母さんを殺され、そしてなお、僕も殺されようとしていた」

そして

「その後僕は自分の力を暴走させ、その二人を殺してしまったんだ」

「そんなことが・・・」


楓はこの出来事のあとから、両親を殺した二人組の男たちを殺すことを密かに掲げていた。それがもう目の前の男の子によってこの世からいなくなっていることを知り、なんとも言えない虚無感を感じていた。

互いに無言になっていると突然外が騒がしくなった。それも、悲鳴を伴っている方だ。


「どうしたんだろう」


二人とも外で何が起きているのか分かっていなかったが


「楓、ちょっと待ってて。何が起こっているか見てくるから。念のため帰って来るまでは外に出てはだめだよ」


楓に念をおすと誠一郎は一人で外へと出ていった。そのとき楓の頭の中にはある考えが浮かんでいた。




一方その頃、遊戯室では。混乱が発生していた。


「おい、お前ら!固まってその場に座れ!」


そう言ってテロリストの男たち総勢7名がそれぞれ銃を持ち、人質を1ヵ所に集めて地べたに座らせる。そして後ろで手を組ませるとその両手に手錠を掛ける。そして人質がもっている携帯電話やらスマホやらタブレットといった通信機器を全て回収した。そしていざ平等派へ宣戦布告するための無線を使おうとしたそのとき人質となっていた施設の子供の一人が


「あれ、楓ちゃんと誠くんは?」

と小さな声で隣の子供に聞いた。テロリストの中の一人が


「そこの子供!何をこそこそと話している!」

と銃口を子供に向けて怒鳴った。銃口を向けられて怖くなった子供は余計なことを口走ってしまう。


「だから誠くんと楓ちゃんはどこにいるのって・・・」


先生たちがどよめく。この反応をみたら誰だって気づいてしまうはずだ。案の定テロリストのリーダーとおぼしき男が


「そこの二人!お前ら子供を探してこい|

と仲間の二人に捜索の命令をくだした。




そんなことは知るよしもない誠一郎は職員室へと向かっていた。全く声が聞こえてこないので不気味に思いながらも職員室前の廊下に差し掛かったときあるものをみた。いや、見てしまった。それはライフルをもっているテロリストの姿だった。顔を引っ込めると急いで楓の待つ図書室へと戻った。だが時はすでに遅しだった。


楓が捕まっている。相手のテロリストは拳銃をこめかみに当てて歩き出していた。


・・・連れてかれる。そう思った誠一郎はこっそりあとをつけていくことにした。テロリストはそれに気づかないまま廊下を歩いていく。角を曲がったところで誠一郎は立ち止まって姿を隠す。テロリストは遊戯室へと入っていった。すぐに突入することなく息を潜めてただただ待つ。


そのまま10分経とうとしていたそのとき現場が動いた。見張りが遊戯室へとはいっていったのだ。その瞬間誠一郎は走る。見張りが替わるタイミングを狙っていたのだ。


走って遊戯室へと向かう。その途中で見張りが戻ってきた。扉を開けるとすぐにこちらに気付き銃を撃ってきた。誠一郎はその弾丸を首を捻るという最小の動作だけでよける。

見張りは弾丸が避けられるとは思ってもいなかったのだろう。避けたのをみるとわずか数秒の間硬直する。そしてすぐに状況を飲み込み、剣を抜いた。


だが相手は剣を抜くときにあるミスを犯していた。相手から視線を外してしまったのだ。

誠一郎はそのわずかな隙を見逃さない。一瞬の隙に超接近すると、剣を振るわれることなく扉ごと相手を吹っ飛ばした。


部屋の中の人たちは急に大きな音を立てて吹っ飛んできたテロリストと扉をみて一瞬にして黙りこんだ。

そしてことの異常さを理解したテロリストのリーダーが


「どうした!何があった」

といいさきほど吹っ飛んできた見張りの男に駆け寄り体をゆらす。

見張りの男は


「・・・なんだ・・・あの子供は・・・」

と一言いうと気を失った。





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