第12話咲羅との出会い
「そうね、やめてくれないかしら」
声のした方を見るとそこには黒野楓がいた。
エリスのほうへとつかつかと歩いていき
「もう一度言います。貴女に誠一郎は合わない。だから恋人も団体戦のパートナーもあたしに譲ってくれないかしら」
といった。するとエリスが納得できないとばかりに
「そんなことやってみなくちゃわからないですわよ」
そもそも
「何故黒野さんにそんなこと言われなくちゃいけないんですの」
すると次は楓が
「何故って誠一郎とあたしは12年の仲なの。それに対して貴女は出会ってからおよそ2ヶ月しか経っていない。そんな貴女に誠一郎を渡したくない。たったそれだけの理由よ」
時は10年前にまで遡る。黒野楓が孤児院に入って間もない頃の話だ。ある日の午後、誠一郎は父親の栄二郎に連れられて車に乗っていた。
「父さん」
誠一郎は父親の栄二郎に声を掛ける。
すると栄二郎は前を見たまま言った。
「なんだ、誠一郎」
と。その後栄二郎はまた喋らなくなった。それは話の続きを促す無言だった。だから再び口を開いた。
「父さん、今からどこに行くの」
そう尋ねると栄二郎も再び口を開く。
「それは着いてからのお楽しみさ。誠一郎もうすぐ着くよ」
と言うと車の運転に集中しはじめた。そして10分後、目的地に着いた。
「ここはどこ?」
と聞くと
「ここは俺の職場だ」
目の前には古い3階建ての建物が建っていた。この建物を一言で言い表すならボロい。そしてもう一言つけ加えるならとてもボロい。そんな建物に父親が仕事に行っているとは思っていなかった。だから
「こんなところで仕事をしていたんだ」
呆然と呟いた。誠一郎は父親の栄二郎のあとに続いてそのボロい建物の中へと入っていった。
そのまま廊下を通ってある部屋の前に立って栄二郎は扉を開けて中に入る。すると中には20歳前後の男の人と女の人が数人いた。栄二郎はそこにいた男の人に声を掛けた。
「中平先生、神崎は来てる?」
神崎舞姫がきているかどうかを栄二郎が問うと「いいえ来ていませんよ」
と中平は言う。
「そうか。ありがとう」
とお礼をいうと、中平が栄二郎の隣にいる誠一郎を見て
「赤城先生、隣のその子は初めて見ましたけどここに連れてきたということは新しくここにくることになったこどもなんですか」
と言う。栄二郎は誠一郎の頭をぽんぽんと叩きながら
「いや、こいつは俺の息子で誠一郎だ」
そういうと誠一郎の方を向き
「誠一郎、ほら挨拶だ。頭下げろ」
栄二郎の手によって頭を無理矢理下げさせられた誠一郎はその手を振り払って
「いいよ、父さん自分で挨拶できるから」
そう言って頭を下げた。
「赤城誠一郎です」
といいここに来てからずっと思っていたことを質問した。
ここはどこですか、と。すると
「ここは孤児院だよ。孤児院というのは親のいない子が生活するところだよ」
と中平が誠一郎にそう説明した。ここの孤児院は院長が神崎舞姫で副院長が赤城栄二郎、誠一郎の父親だ。そしてここの孤児院は新旧平等派が運営している。
「なんで親がいないの?僕には父さんがいるのに」
それはね、と中平が言い説明しようとした。すると栄二郎が
「中平先生、それ以上は駄目だ」
と言葉を続けさせなかった。
「よし、誠一郎。一旦出るぞ」
と栄二郎が誠一郎の腕をひいて部屋から出ていった。
「どうしたの?そんなに急いで」
もう帰るのと栄二郎に聞くと、
「いや、まだ帰らないよ。誠一郎に見せたいものがあるからな」
そうして栄二郎と誠一郎は職員待機室から出るとまた歩き出す。しばらく歩くと扉があった。
「さっきの人が話したようにここにはこどもがたくさんいるからびっくりするなよ」
そう言うと扉を開けた。
中に入るとすぐにこどもたちが栄二郎の元に集まってきた。黒髪に茶髪など様々な髪の色のこどもたちがいた。
「あ!赤城先生だ。こんにちはー」
「となりのこってだれー」
「おーい赤城先生、ちゃんばらやろうぜー」
こどもたちが同時に喋るため普通なら何を言っているのかわからないはずだ。しかし栄二郎は関係ないとばかりに順番に返事をしていく。
「みんなこんにちは、元気にしてた?」
と見た目12歳位の男の子に挨拶すると、次に
「隣のこいつは誠一郎で俺のこどもだよ」
と喋った中では一人だけの女の子にも自分のこどもを紹介し
「ちゃんばらかー、いいぞやるか」
といい9歳の元気な男の子と一緒に部屋の外へと向かうと出ていく直前に
「この孤児院の中で遊ぶんだぞ。この中でも友達作れよ」
と言い今度こそ部屋の外へと出ていった。
図書室で一人で本を読んでいると隣に誰か座ったように感じた為、顔をあげると
ここで何してるのとでも言いたげにピンクのショートカットに三つ編みの少女がこちらを見て座っていた。
「ぼくになにか用」
と質問するが何も喋らない。
「いつからここにいるの」
と再び質問した。しかしまたもや返答はない。
「きみの名前は」
と二回無視されたにもかかわらず負けないとばかりに質問するととうとうその女の子は折れた。
「楓。黒野楓」
と名前だけ告げるとまた沈黙が始まった。そのまま互いに黙っていることしばし。楓が口を開いた。
「あなたってあの赤城先生のこどもなんですか」
「そうだけど」
と誠一郎。
「赤城先生はあたしがここに来たときからいました」
と楓は言う。無論そのことをついさっき知った誠一郎は驚いたように目を見開く。その反応を見た楓は
「知らなかったんですね。ここで働いているのを」
楓と誠一郎は気付かなかった。後ろに栄二郎がいることを。そのまま話していると
「随分と楽しく話しているみたいだな」
と後ろから栄二郎の声がした。楓と誠一郎は二人揃って錆びた螺のようにゆっくりと振り向く。
「あ、赤城先生」
と楓が呟き
「これは、その」
と誠一郎はやはり楓と同じ反応をする
「誠一郎ちょっと来い」
と言われた誠一郎はゆっくりとした足どりで栄二郎のほうへと行った。
「誠一郎。お前すごいな」
と言う。なにがと問うと
「楓ちゃんってさここに初めて来たときからとても人見知りで俺以外とはこどもはおろか先生達とも喋らなかったんだよ」
と栄二郎が驚いたように言った。
つまり、
「お前が俺以外と喋ったこども第1号だ」
と言っている。顎に手を当てて考える。すると閃いたように手を叩き
「そうだ、誠一郎。これから毎日俺と一緒にここに行くぞ」
と言うとこちらが答えを出すよりも先に、いいな、と念を押す。有無を言わせぬ口調に
「はい」
としか言うことができなかった。
話をして誠一郎達が戻ってくると楓は本を読んでいた。
「そら誠一郎」
と栄二郎が背中を押す。
部屋に押し込まれた誠一郎は後ろを向き
「なにするんだよ」
と言うと
「用事があるから行くわ。だから楓ちゃんのことよろしくな」
と言うと、扉の方へと向かった。扉の前に立つと後ろを向かずに
「終わったら迎えに行くからな」
そう言うと今度こそ部屋の外へと出ていった。
誠一郎は栄二郎が出ていった扉を見つめていると
「貴方のお父さんすごい忙しいのね」
呆れたようにそう言った。誠一郎は肩をがくりと落とした。
続く
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