第11話覇王剣祭のチーム結成
学園長室から姿を消した杏奈はすぐに電話を始めた。
「もしもし、誠一郎くん。私だよ、天王寺杏奈。さっきの覇王剣祭の開催を早めることについてだけど」
言葉を発する前に誠一郎が質問をする。
「どうでした?うまくいきました?」
「勿論だよ。来週発表してその次の月曜日から予選が始まるみたいだよ」
「流石天王寺先生、仕事早いですね」
杏奈はそんなことは最低限必要なことだから誉められるようなことではないと思った。
「まあ、そういうことだからチームの名前とメンバーについては考えておいてね」
お互いに帰りの挨拶をすると通話を終えた。
「誘う人はエリスしかいないな。今日のうちに了承をもらって明日から練習に入れるようにするか・・・」
最後に誠一郎はそう呟き家路に着いた。
家に着くとエリスは家にいた。それは別におかしくはない。何故なら、F組のホームルームのときに誠一郎が天王寺杏奈に新旧差別派について質問してその答えが長引いてしまい、その後もいろいろと天王寺杏奈と話をし、話が込み入ってしまい遅れたということだ。
「ちょっと話があるんだけどいい?」
先程、天王寺杏奈から来週には覇王剣祭団体戦が始まると連絡があり、それに出るためにはチームを作ることが必要だった。
家に行く前に誠一郎は西門正春に声をかけたがもうペアが決まっていたらしくチームに入れることはできなかった。ルームメートで咲羅とは違い話す機会が恵まれているエリスを誘うことにした。
「なんですの、話というのは」
訝しげに問いを放つとその答えが帰ってきた。
「実は再来週から覇王剣祭がはじまるんだけど、団体戦でパートナーとして出てほしいんだけどいいかな」
「勿論いいですわ」
だけど
「こちらからもひとつお願いがあるんですけどいいですか」
誠一郎は先を促す無言を放つ。するとエリスは
「覇王剣祭の個人戦にも出たいから誠くんも個人戦に出て。そして誠くんと戦いたいんですの」
エリスに団体戦に出て欲しいとおねがいしたのだ。だからエリスのお願いを断れない、そう思った誠一郎は
「解ったよ」
俺だけがお願いを聞いてもらえるのは不公平だからなというと
「それじゃあ交渉成立ですわね」
「よし、エリスが団体戦に出てくれることも決まったし夕飯でも食べに行きますか」
「行きましょう」
そう言うと二人はいつも食べに行くファミレスに向かった。
ファミレスに着くとそこには西門正春がいた。よく見ると知らない男子もいた。
「正ちゃんじゃないか」
すると声を掛けられた正春はこっちを振り返ると誠一郎の姿を目にして驚いたように
「やあ、誠一郎。ここで会うなんて奇遇やね」
「そうだな。お前もここでご飯食べてたんだな」
「まあな。ここの飯、むちゃ美味いもんな。誠一郎たちもここに食べに来たということは、ここの味が気に入っとるってことやもんな」
何故か自慢げに話しているため、正春に、なんでそんな自慢げなのか聞いてみると
「だってここの店、石路明博がシェフやってるトコだし」
ここの店は石路明博がシェフとして働いている店だ。石路明博は世界有名シェフランキングで毎年ベストテンに入るほどの腕前を持っているのだという。
「そうだったんだ、正ちゃんオススメの店ならここを選んだ甲斐があったよ」
「そういえば昨日さ、校長に再来週から覇王剣祭が始まるって連絡があったんだけどさ」
と誠一郎。
覇王剣祭とは1年に1度1ヶ月かけて覇王学園で行われる学園最強を決める行事だ。
「その話はもうしってるよ」
と正春。誠一郎は
「何故その事を知ってるんだ。その話は先生達しか知らない情報の筈だけど」
そう言って、一瞬で後ろに下がり距離をとる。
「そんなに警戒しなくてええよ。ちびっと前に差別派が攻めてきたのは覚えとるだろ。差別派と戦ったあと、副校長からその話を聞いたんだよ。学生が差別派と戦えるようにということで早めにやるんだってさ」
副校長ならそのことを知ってるか、と一人で納得する 。
「それで覇王剣祭がどうかしたのかい?」
正春がそんなことを聞いてきた。覇王剣祭には個人戦と団体戦があり生徒は個人戦か団体戦のどちらか1つを必ず参加しなければならない。
「俺とエリスは団体戦に出るんだけど、正ちゃんは誰と出るの」
そう聞くとエリスが口を挟む。
「ちょっとまってよ、決めたでしょ。出るのは団体戦だけじゃない、個人戦も出るって」
「あ、ああそうだったな」
ごめんごめん、と軽く謝り
「で、どうなんだ」
と誠一郎は正春に答えを求める。すると
「わしはあいつと出るよ」
といい正春の隣にいる彼を見た。誠一郎はそれを見て
「ということは昨日言ってた正ちゃんとペアを組むというのは彼のことか」
と言った。正春の隣に座る彼は
「ぼ、ボクは石路政弘です。正春くんがいつもお世話になってます」
と自己紹介をすると頭を下げた。
「いやいや、先にお世話になったのはこちらの方だよ」
この言葉に嘘はない。そして、
・・・この人、本当に男なのかよ。めちゃくちゃ可愛いじゃねえか。
そう思った。しかも
・・・めちゃくちゃ足も細い。転(こ)けたらそのままぽっきりいっちゃいそう。
そういったところからも本当に戦えるのかと本気で思ってしまう。
だが、正春がパートナーとして選んだくらいだ。なにかすごい力を持っているに違いない。
「正ちゃんはそこの彼と団体戦のパートナーを組むの」
そう聞いた誠一郎に対し正春は、
「当たり前やろ。まっさーはああ見えてむちゃ強いんだよ。Cランクでも下の方が相手なら簡単に倒せるよ」
そんなに強いとは。びっくりした誠一郎は
「じゃあ、政弘って何組に入ってるの」
と聞くと
「ボクは正春くんと同じクラスだよ」
という答えが返ってきた。同じクラスということは正春と政弘がBランクであることを意味している。
「ところで誠一郎の隣にいるその女の子って誰?」
もしかして
「団体戦ってその子と出るの」
「まあそのつもりだけど」
と誠一郎が肯定すると正春はエリスの前に来て
「どうも、わしは西門正春です」
よろしくといい自己紹介するとエリスも
「私はエリス・ラティアークといいます。はじめまして」
とエリスも自己紹介する。すると政弘が驚いたように
「エリス・ラティアークってあのときの?!」
その声に反応し正春が
「なんだまっさー、彼女のこと知ってるのか」
首を傾げる。すると
「知ってるもなにもエリス・ラティアークが少し前にうちの店に来たって父さんが言ってたよ」
「そうなのか」
「そうなのか、じゃないよ‼ラティアーク家は代々優秀な固有武装適合者を輩出してる家系でエリス・ラティアークは現在のイギリス王室の第3王女なんだよ」
政弘がそう告げたのに誠一郎が反応する。その反応にはその事を知らなかった者がいたという真実を含んでいた。
「おいエリス、どういうことなんだ。詳しく説明してくれ。何故その事を隠していたんだよ」
問いつめるとエリス・ラティアークは口を開いた。
「私がイギリスの王室の第3王女だということを黙っていてごめんなさい」
エリスは謝る。しかしそれでも誠一郎の怒りは収まっていないのがわかる。それはエリスに対して初めて見せたものだった。気圧されながらもエリスは言葉を続ける。
「今まで私が友達だと思っていた人達が、私が王族だと知った途端、私に対する態度が王族に向けるものへと変わってしまった」
わたしは
「それが嫌だった。あなたに私が王族だと知られたらまた今までのように私を王族として接するようになるかもしれない。それが怖かった。だから私はそのことをずっと黙っていたんですの」
そう言うとエリスは再び頭を下げた。すると誠一郎が口を開いた。
「なんだそういうことだったんだ」
でも
「もうそんなことで悩まなくてもいいよ。例えエリスが王女だろうと俺には関係ない。どんな君でも受け入れるよ」
だって、
「俺は君の恋人なんだから」
そういってこちらに近付いてくる。エリスは我慢できなくなり誠一郎に抱き付いた。そして彼の胸の中で泣き出した。その場で抱きあうことしばし、すると
「ちょいとそこのお二方、そこらへんでやめてくれませんかね。公共の場なんで」
誠一郎とエリスは急いで距離をとった。
「そうねやめてくれないかしら」
突然入ってきた声に四人共が声のした方をみる。すると、そこにはピンクのショートカットに三つ編みの少女、黒野楓がいた。
続く
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