憑き者【フィリピン】
数年前のことになるが、フィリピン人の元同僚から連絡が来た。
『ツカサが好きそうな記事見つけたよ』
リンクをクリックすると、ニュースサイトに繋がった。記事の内容はフィリピンで起きた心霊現象についてだった。元同僚によると、そのニュースサイトはゴシップ専門というわけではなく割とお硬いニュースを取り扱っているそうだ。信憑性があるということだろう。
こういった連絡はいまでも色々な国の知り合いから来るのだが、本人が体験しているわけではないので正直読むだけで終わってしまう。ありがたいことには違いないのだが。
そのフィリピンの心霊現象というのは、ヴィンテージのシェルフを購入した女性宅で起きているのだそうだ。
内容はシェルフに置いたものが床に落ちるといったものだ。不思議なのは全ての物が落ちるのではなく書籍以外の物が落ちるということだ。最初は観葉植物やデコレーション小物を置いていたのだが、次の日それらは全部落ちていた。それから色々な物を置いてみたが、どうしても落ちてしまう。試行錯誤の結果、書籍関連は落ちないのだと気がついてからは本棚として使っている、ということだった。
以前別の物を置いていた時にその家の子供が夜中にシェルフの前に佇む男性を見た、ということも書いていた。男性は無言だったが、大きく肩を震わせていた。よく見ると声こそ出ていないが怒りの表情で何かを叫んでいた、とのこと。
ヴィンテージの定義はさておき、自分の前に持ち主がいたとなればそれは立派な中古品である。元の持ち主の念がこもっているのだろう。
と、これだけで終わっていたのだが、しばらくしてからまた連絡をもらった。
今度はニュースサイトのURLではなく、SNSのスクリーンショットだった。
投稿主は女性。タガログ語で何か書いていて、その下に写真を載せている。写真は木の板を写したものだったが、そこにマジックで何か書かれていた。
”犬川千枝子・胴”
達筆に書かれたその文字はシェルフの底にあったそうだ。持ち主はついに廃棄することにしたらしく、シェルフをひっくり返した時に見つけたのだという。
『これって日本語でしょ?』
日本語なのは間違いないが、だからといって犬山千枝子という名前だけで個人は特定できないし、子供が見たという男性との因果関係の解明もできない。
ただ、字の濃さからそれが割と最近書かれたということは分かる。すでにシェルフは解体され燃やされてしまったらしく、書いてある通りの物が入っていたのかどうかは謎のままである。
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