オオサンショウウオ【中国】

 Sさんという30代の女性に聞いた話である。


 Sさんがまだ子どもの頃、父親がオオサンショウウオを持って帰ってきた。両親は捌いて食べるつもりだったようだが、Sさんが泣いて反抗するので仕方なく飼うことにした。


「母に『飼いたいって言ったんだから自分で世話しろ』って言われて……結構大変でした」


 オオサンショウウオは肉食である。Sさんは近くの池や川で餌を捕まえなければならなかった。毎日餌をやる必要はなかったのだが、何時間も魚や虫が捕まらないこともよくあったようで、だんだん億劫になってきていた。


 そんな時近所の若い夫婦がSさんの家に来て「オオサンショウウオが欲しい」と言ってきた。当然Sさんは嫌がったが母親から「もう餌やり面倒なんでしょ?」と図星をさされ、夫婦からは「好きな時に見に来ていいから」と懇願されたため、断れずに譲ってしまった。


 数日間は約束通り見せてくれていたのだが、すぐに水槽を黒いビニールで覆ってしまった。蓋を開けて上から覗き込んでも真っ暗で何も見えない。


「夜行性だからこの方がいいのよ。餌も食べてるし心配しないで」と言われた。


 だけど、とSさんは言う。


「餌をあげていたから分かりますけど、オオサンショウウオは魚の真ん中しか食べないんですよ。本当なら魚の頭としっぽがぷかーっと浮かんでるはずなのに」


 それを指摘すると、次からわざとらしく魚の頭としっぽが水槽に浮かぶようになった。


 しばらく経ち夫婦に子どもが生まれた。しかし、近所の誰も赤ちゃんを見た人はいなかった。奥さんの体調が悪いということで訪問を断っていたそうだ。

 Sさんもオオサンショウウオのことが気がかりで何度も訪ねていたが、いつも門前払いされていた。


 ある日夫婦の家に行くと旦那さんが出てきた。Sさんの他に誰もいないのを確認するとその日はついに家に入れてくれた。

 家の中には、奥さんが赤ちゃんを抱えて静かに座っていた。Sさんが近づいても何も言わない。よく見ると、赤ちゃんの頭は異様に大きく、対照的に手足は短く小さかった。


 Sさんは驚いたが何も見ていないふりで通り過ぎ、水槽の蓋を開けた。

 水槽の底には干からびた魚の死体があるだけだった。水が抜かれて随分経っているのだろう。


 その時、旦那さんのささやき声が聞こえた。


「栄養のあるものを食べさせてあげたかっただけなんだ」


 奥さんと赤ちゃんの方を悲しげに見ていたそうだ。


 Sさんはすぐに夫婦の家を後にした。帰宅してから母親にそのことを告げると、


「うちもね、実はあんたが飽きてきた頃に食べようと思ってたんだけど、そんなことになるんなら譲って正解だったね」


 と、笑顔でそう言われた。

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