かくれんぼ・二篇【ベトナム】
ベトナム南部には「絶対にかくれんぼをしてはいけない場所」が点在する。子供は親や近所の大人からそう言われて育つのだそうだ。しかし中には言いつけを守らない子供もいる。では、してはいけない場所でかくれんぼをするとどうなるのだろうか。
現在大学生のMさんのふるさとにもかくれんぼ禁止の場所があった。それは山の中だった。特に危険な場所というわけではない。子供たちは山で遊ぶことは禁止されてはいなかった。ただ、かくれんぼだけはするなと大人たちから厳しく言われいてた。
そうは言われていたものの、山でできる遊びなど限られている。ある日、Mさんは友達とこっそりかくれんぼをすることにした。山の中には隠れるのにちょうどいいところがたくさんあって楽しかった。
鬼を変えて何度目かのかくれんぼの時、友達の一人が見つからなかった。皆で暗くなるまで探したのだが、とうとう出てこなかった。諦めて大人を呼びに行き、近所の人達総出で探したのだが、やっぱり見つからない。
そして、翌日。散々探したはずの場所に、冷たくなったその子がいた。何故か口の中いっぱいに土を詰め込んだ状態で発見されたという。
Mさんの話を聞いたすぐ後で、Aさんという男性からも話を聞いた。Mさんのふるさとから30キロは離れている場所だが、Aさんが住んでいたところにもかくれんぼ禁止の場所があった。こちらは山ではなく川のそばということだった。
親たちから口を酸っぱくして「かくれんぼはするな」と言われていた場所でAさんは近所の友達と遊んでいた。誰が言い出したのかは分からないが、何となくかくれんぼをする流れになった。
背の高い木の陰に隠れていたAさんは、木の根元に何か置かれているのに気が付いた。よく見るとお菓子のようだ。普段はそんなことはしないのだが、何だかとてもおいしそうに見えてきてつい、1つ手に取って口へと運んでしまった。ほんのり甘いけれど、あまりおいしくない。他のお菓子には手をつけなかった。
するとその時、鬼をしていた子が目の前を通り過ぎた。Aさんには全く気が付いていないようだ。それからも何度か木のそばを通り過ぎるのだが、全然見つけてくれない。ついに先に見つかった他の子もAさんを探すのを手伝いはじめた。
「おーい、A! どこ?」
「A、もう帰ろうよー」
そう言われて、辺りがもう薄暗くなっているのに気が付いた。Aさんは木陰から「ここだよ!」と皆に向かって叫んだ。が、皆には聞こえていないようだった。皆のことろに行こうとしたのに足が動かない。どうしようどうしよう、と焦るばかりのAさんの目の前を、今度は両親が通り過ぎる。必死で自分を探している。
『あぁ、もう家には帰れないのか』
と半ば諦めたような気持ちになった。
いつの間にか空が白んで朝になっていた。遠くで自分を呼ぶ声が聞こえる。
「ここだよ!」
そう声の限りに叫ぶと、何かが喉に絡みついて咳き込んだ。吐き出した唾には土が混ざっていた。それを見ていると急に吐き気が込み上げてきて、べしゃっとその場に吐いてしまった。真っ黒な土だった。その時、
「Aだ! いたぞ!」
やっと見つけてもらえた。泣きながら迎えに来た両親と家に帰った。
Aさんは現在30代。近所の子供に「川のそばでかくれんぼをしてはいけないよ」と言っているそうだ。
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