探し物

「僕が泊ってるホテルってもしかして、”いわくつき”ですか?」

 日本から出張に来ているYさんにそんな質問をされた。どうやら部屋に幽霊が出たようだ。


 ――夜、寝ているとガサガサという物音がする。音はスーツケースを置いている辺りから聞こえてくる。

 目を凝らしてよく見てみると、そこに毛足の長い小型犬のような何かがいた。スマホを取って明かりをそちらに向けた途端、それは消えた。物音も聞こえない。スマホを伏せる。すると今度は自分のすぐ横に何かの気配を感じた。横目で見る。真っ黒な人が立っていた。両腕をまっすぐ下ろした「気をつけ」の姿勢で、自分を見下ろしていた……のだろうと思われる。頭がないのだ。頭がない真っ黒な人から視線を感じる。意を決してベッドサイドランプのスイッチを叩くと、その人はふっといなくなった。


「部屋変えてもらった方がいいですかね?」


 ホテルは社員がいつでも使えるようにと社長が社屋のすぐ隣に建てたもので、これまで人が亡くなるというような事件も事故も起こっていない。私はここに来てもう2年ほど経つが、幽霊を見たこともなければオカルトに関する噂すら1つも聞いたことがない。怪談好きな私に同僚たちが時々怖い話をしてくれるのだが、それもすべて遠くはなれた土地のこと。念のためYさんの心霊体験について同僚に聞いてみたが、心当たりが全くなく驚いていた。つまり、ここは心霊的にクリーンな場所のはずなのだ。Yさんも「長旅で疲れてたのかもしれませんね」と安心した様子で、結局部屋は変えずにそのままにすることにした。


 そんなYさんは来週日本に帰国する。日本からの出張者などここ数年なかったので部署を挙げて送迎会を行う予定だ。それに先立って市内観光に行こうということになった。同僚たちと観光パンフレットを見ながら面白そうな場所を探していたところ、とある写真が目に留まった。


『〇〇歴史博物館』


 館内ではなくその庭園の写真に写ったある物。縦に長い長方形の木枠、その下部には丸く穴の開いた板――

 同僚に見せると笑いながら手で首を切るジェスチャーをした。断頭台だ。

「ツカサさん、こういうの好きですよね~」

 と、その断頭台に関するいろいろなエピソードを教えてくれた。


 断頭台、というか処刑場は元々市内の別の場所にあったこと、罪人なので処刑後はその都度適当に埋葬されていたこと、そしてそのまま道路が敷かれたこと。


「処刑場とか罪人の墓地とか今もちゃんと残ってたら絶対ツカサさん行きたいでしょ。でももう全部ぐちゃぐちゃにして埋まっちゃったから分からないね」

 などと盛り上がっているが、私が気になっているのはそういうことではない。


 帰国まであと6日。私はYさんに伝えた方がいいのだろうか。

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