ブッダの加護【ベトナム】
ベトナムでは魔除けのためにニンニクを祭壇に供えたり玄関に置いたりする人が多い。私が日本で会ったベトナム人はまるごと一個、カバンに入れて持ち歩いていた。
「そんなのね、全然役に立たないんですよ」
と、Aさんは言う。
現在20代後半のAさんが18歳のころだから、今からおよそ10年ほど前のことだ。Aさんは家族でベトナムのとある観光地を訪れた。中心地にある有名なホテルに泊まり、ガイドブックに載っているような人気の観光スポットをいくつか見て回った。つまり、オーソドックスな旅行だった。
ところが帰宅したその日の夜、Aさんは金縛りにあった。
ベッドに入った瞬間に体が動かなくなり声も出せなくなった。そのうち、耳元で犬の唸り声も聞こえてきた。どうしようどうしようどうしよう……一人静かに焦っているうちに時間が経ち、部屋の中がうっすら明るくなった。
すると、ふっと金縛りが解けた。
旅行帰りで疲れていたせいだと考えたAさんは特に気に留めることもなくその日を過ごした。そして夜、ベッドに入ったAさんはまた金縛りにあった。金縛りはそれからも毎日続いた。
事態を重く見た母親は家のあらゆる場所にニンニクを大量に置いた。効果はなかった。次は枕の下に包丁を置いてみた。それも全く効果がなかった。困り果てた彼女は、近所にある仏教寺院に行きペンダントタイプのお守りを買ってきた。翡翠でできたブッダのペンダントだったそうだ。
Aさんは半信半疑だったが、とりあえずそれを身に着けてから床に就いた。
すると、その日はなんと金縛りにあわなかった。
その日から夜だけでなく日中もペンダントをつけることにした。いつも肌身離さずつけていると、何だか本当にブッダに守られているような不思議な気持ちになった。
ところがそれから数ヵ月後、久しぶりにまた金縛りにあった。朝起きて首元を見ると、つけていたはずのブッダのペンダントが消えていた。
「で、また買ってきてもらったのがこれです」
そう言って、茶色のブッダがついたペンダントをシャツの中から引っ張り出して見せてくれた。前のと同じ翡翠ではないが、効果はあるようだ。二つ目のペンダントを買ってからは金縛りに悩まされることはなくなった。
考えてみれば、ニンニクが魔除けになると言うのは西洋のドラキュラを連想させる。やはり仏教徒には仏教のお守りが効果があるのだろう。そう思ったのだが。
「僕たち一家はクリスチャンです」
……ということは、Aさんに取り憑いていた何者かが仏教徒だったと解釈していいのだろうか。
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