筆者近況【中国】
更新が滞ってしまい、申し訳ありません。
『海の向こうの怪異録』は本エピソードを以て完結とします。詳しい理由などはまた近況ノートに記すとして、まずはこの数ヵ月の事を書きたいと思います。
『海の向こうの怪異録』を書き始めたのが去年の七月でした。その頃は中国の河北省――北京や天津の近く――という場所に住んでいました。今年の九月に職場が変わり、現在は南の島で生活をしています。
外国人が私ひとりしかいなかった前職場と違い、現在は韓国人、アメリカ人、インドネシア人、マレーシア人、イタリア人、スペイン人、アラブ人など、様々な国の同僚がいます。
環境が変わっても私の怪談好きは変わらず、日々同僚の出身国の怪談を聞いています。
確か、赴任してすぐの頃だったと思います。
フィリピン人から私たちの住む社員寮についてとある怪談を聞きました。
どのような話なのか簡単に説明すると、誰もいないはずの部屋をノックしたら中から返事があるという話です。
これは現在の話ではなく、もう六年も前のことだそうです。当時社員だった人が実際に体験したとのことですが、部屋番号すら分からない、言わば眉唾ものの怪談です。
そういうわけで私はこの話をつい最近まで忘れていました。
最近まで。
数ヵ月も毎日顔を合わせているので私たちは仲良くなり、だんだんと勤務時間外でも一緒にいるようになりました。
それで、最近妙なことに気が付きました。
誰かの部屋でお茶を飲んだりご飯を食べたりして過ごしていると、決まってフィリピン人が「あ、誰か来たよ」とドアを開けるんです。ノックが聞こえたと言うのです。
しかしその場にいる全員、ノックの音を聞いた人はいません。
聞こえていたのはフィリピン人だけです。
そうです、例の怪談を話してくれたフィリピン人です。
誰か来たと言って席を立ちドアを開けて、怪訝な顔をしてドアを閉める。そのようなことが今までに何度もありました。
私はあの怪談を思い出しました。
フィリピン人だけに聞こえるノックの音は怪談と何か関係があるのではないか、
話した人間や聞いた人間に災いをもたらす類の危険な怪談ではないだろうかと。
とは言え、怪談の内容との因果関係が薄く、ノックが聞こえるというのも災いという程のことではありません。
だから私は六年前にここで働いていた社員について調べることにしました。
そこで分かったことは、
・当時働いていた外国人社員は十二人
・そのうち四人が途中帰国(チェコ人が外科手術のため帰国、イギリス人が癌を患い帰国、アメリカ人二人がうつ病を発症し帰国)
・残った八人は期間満了まで働くも契約の更新はせずに帰国
・彼らの帰国後、会社の担当者が連絡を試みるも返事はなく音信不通に
という、怪談の手がかりとはならないような情報だけでした。
しかし私は思うのです。
これ以上首をつっこむようなことをすれば、ノックの音だけでは済まない何かが私たちに起こるのではないか、と。
相変わらずフィリピン人にだけは聞こえているようですが、因果を解くようなことはしません。きっと、このまま終わらせるのが一番いいのでしょう。
いつも考えていることなのですが、怪異とはそれなりに距離を取って付き合うべきなのです。
この話もそろそろ終わりにしましょう。
読んでくださった皆様の元へ、海を越えた怪異がたどり着く前に。
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