能力査定

「一次変電所!」 


 大きな声が聞こえました。雷太郎君は眠そうに目を開けました。もうすっかり夜が明けて電線の中にまでお日様の光が差し込んで来ています。


「ふわあー……」


 雷太郎君は大きなあくびをしました。とても心地好く目覚められたので気分はすこぶる爽快です。


「これが地上かあ」


 雷太郎君は電線の外に広がる景色を眺めました。眠ったままでも流れによって体は運ばれていたのでしょう。広い野原を走る電線の下には、昨晩は見えなかった建物がポツリポツリと見えます。遠くには山も見えます。鉄塔はその山の上にも立っています。


「どこまで続いているんだろう」


 鉄塔とともにこの電線はずっと延びています。雷太郎君は果てしなく続くこの電線を見て、今更ながらに地上の広さを感じずにはいられませんでした。そしてやはり地上に来て良かったと思いました。雷太郎君は両手で頬を叩いて気合いを入れると、勢いよく立ち上がりました。


「よおし、せっかく地上に来たんだ、こうなったらもっといろんな物を見て、いろんな事を知ってから雲に帰ってやる」


 雷太郎君の心の中にはもう不安はありませんでした。その代わり明るい希望が湧き上がってきました。


「あー、そこの君、前に詰めてくれないかな」


 突然右側からベータ族の声が聞こえてきました。こんな風に声を掛けられたのは初めてです。雷太郎君は驚いて右を見ました。そしてもっと驚きました。


「えっ、どうして?」


 今まで走っていたベータ族がみんな止まって一列に並んでいるのです。もちろん雷太郎君自身も止まっています。

 今度は左を見ました。雷太郎君から離れた場所にベータ族が一列に並んでいます。雷太郎君は慌て左側へ移動し、並んでいるベータ族の列の後ろに付きました。雷太郎君の右側に並んでいたベータ族も、みんな前に詰めて静かに一列に並んでいます。


「これはいったいどうしたんだろう。確かさっき変電所とか言っていたみたいだけど」


 雷太郎君は何が起こったのか誰かに聞こうと思いました。しかしどのベータ族も走ってはいないものの、相変わらず何やらぶつぶつつぶやいています。しかもその顔は走っていた時よりも真剣です。顔中に汗を流している者もいれば、この世の終わりが来たみたいな顔をしている者もいます。それから神様に祈っているように目を閉じている者もいます。とても話をするような雰囲気ではありません。


 雷太郎君は声を掛けるのをやめて外の景色を眺めることにしました。列はゆっくりと前に進んで行きます。しばらく行くと前方に大きな箱が見えてきました。その箱には角のようなでっぱりが二本付いています。一方が入口でもう一方が出口のようです。


「何だろう」


 入口からはベータ族が一人ずつ中に入っていきます。出口からも一人ずつ出てきています。雷太郎君は胸がどきどきしてきました。自分も順番が来ればあの中に入らなくてはいけないようです。

 箱の中へ入っていくベータ族は皆一様に緊張した面持ちです。一方、出口から出て来るベータ族は、喜んでいる者もいれば、がっかりした顔をしている者もいます。


 そうこうしているうちに順番が回ってきました。雷太郎君は胸を弾ませながら角から箱の中へ入りました。箱の中は薄暗く、道はくるくると螺旋のように回っています。と、いきなり大きな声が聞こえてきました。


「なんだ、おまえは何も覚えていないな。得点は零点。家庭用に決定。こんな出来の悪いヤツは初めてだ」


 声と一緒に道が途切れたかと思うと、いつの間にか螺旋の回り方が逆になっています。初めとは反対に回りながら歩いていると、やがて出口に出てきました。


「なんだったんだろう。零点とか、家庭用とか。意味がよく分からなかったなあ」


 雷太郎君は狐につままれたような顔をしました。出口の周りにはたくさんのベータ族が集まっていて、皆、ぶつぶつつぶやいています。


「よし、この調子だ」

「まだ間に合う。これからが勝負だ」

「何が悪かったんだろう。おかしいな」

「今の状態を維持すればいいな」

「とにかく急ぐことだ。早ければそれだけ有利」


「皆、何を喋っているんだろう」


 雷太郎君は出口の周りでたむろしているベータ族を不思議そうに見渡しました。やがて電線の中の流れは再び動き出し、集まっていたベータ族は一人二人と走り始めます。雷太郎君も次第に速くなる流れに身を任せて、走って行く彼らを眺めていました。

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