第13話 片想い pattern:なつき

 「なつきは好きな子いるの?」


 いつも優しくて、温かいお日様みたいなお母さん。


 でも、「女の子を好きになった」と言ったらお母さんは何て言うのかな。

 …あまり良い言葉は出ないだろうな。

 今の私ならこう考える事ができるが、当時幼稚園の年中組だった私はできなかった。


 「いるよ!」

 お母さんの周りに花が咲いたみたいだった。

 「えっ!誰!?なつき、お母さんにだけ教えてよ〜」

 私はコクンと頷いた。

 「同じチューリップ組の、みつるちゃん!」

 少しの沈黙と、固まるお母さん。

 「お友達としてよね?」

 いつもの笑顔だけど、少し怖かった。

 「ううん、みつるちゃんと結婚したい!」

 お母さんは困った顔をして優しく言った。

 

 「みつるちゃんは女の子だよ?」


 だからなんなの。

 女の子を好きになって、何がいけない?


 あれから12、3年経った。

 私は今でもみつるが好き。

 会えば会うほど想いが強くなる。

 でも、この想いを本人に伝えることは絶対しないでおこうと決めていた。

 …しかし、一人の男子に呼び出された事から考えが変わったのだ。

 石田裕斗。

 そいつに昼休みの図書室で話しかけられた。

 昼休みの図書室は人が全然来ない。

 だから私は読書をしていた。

 すると、前方に気配を感じた。

 顔を上げると、そいつがいた。

 「なつきちゃん、今話せる?」

 普段ワイワイ騒いでいる人が図書室に来るなんておかしいと思った。

 「話せるよ。」

 昼休みに図書室に来るほどの本好きはほとんどいない。

 貸し出しカウンターにいても、人が1日に1人来るか来ないかだ。

 「良かった、じゃあ早速聞くけど。」

 そいつは恥ずかしそうに少しはにかみながら。

 「みつるちゃんの部活が終わる時間って分かったりする?」

 

 …え。なんで。

 「それを聞いてどうするの?」

 「それは内緒だよ〜」

 「じゃ、言わない」

 そいつは眩しいくらいの笑顔をする。

 「え〜、じゃ、なつきちゃんだけに教えるね!」

 貸し出しカウンターから身を乗り出して私にこう耳打ちをした。

 「好きだからだよ。」

 恥ずかしそうに顔を赤らめて。

 「そ、そうなの。」 

 私は今、どんな表情をしているのだろう。

 「…みつるは、多分17時くらいに部活終わるよ。川であの子スケッチするから。」

 なぜ私はそいつに教えたのだろう。

 これをきっかけに、あきらめがつくとか思ったのだろうか。

 「おっけ!さんきゅ!」

 足早に出て行くそいつは嬉しそうで、キラキラしていた。 

 なんとなく、みつるもそいつを好きになるような気がした。

 目に熱いものがこみ上げる。

 嫌だ、そんなの嫌だ。

 何か気を紛らわせなければ。

 本を手に取ろうとした時。

 思いついたのだ。

 私がその時読んでいた本は、『小瓶』

 主人公の女の子が伝えられない想いを綴った手紙を小瓶に入れ、川に流し偶然相手に届くという話だ。

 私もやろう。やってみよう。


 早速、学校終わりに雑貨屋へ行きインテリア用の小瓶を買って川へ向かった。

 なつきはまだ来ていないみたいだ。

 運試しのつもり。

 こんなのどうせ流れて終わる。

 どっかの物語じゃあるまいし。

 そんな事を思いながらメモに一言

 『愛しています』

 とだけ書いて川にながした。

  

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