第12話 私
「ねぇ。今頭の中に誰を思い浮かべた?」
聞きなれた声がした。
「……なつき?」
そこには、笑っているのか泣いているのか怒っているのか分からない顔をしたなつきがいた。
「ねぇ、答えてよ!!頭の中に誰を思い浮かべたの!?」
大粒の涙がぽろぽろと流れでている。
なぜここにいるの?なぜ泣いているの?
‥なつきが目の前で泣いているのに、私は何を考えているのだろう。
「みつるっ…。みつるっ…」
崩れるように膝を落とし、泣いている。
私はただ呆然と見ているだけで、答えようとはしなかった。
だって、言ってはいけない気がしたから。
しばらくして嗚咽がおさまると、ぼそぼそと話し始めた。
「…どうせ、いしだくんでしょ?」
顔をあげたなつきの目にはまだ涙が溜まっていて、今にもこぼれ落ちそう。
「答えなくていいよ。わかってる。」
顔を伏せるなつき。
「みつる…勘違いしないでよ。」
「えっ、」
「私だよ…小瓶…書いてたの…私だよ、なつきだよ。」
‥やっぱり、だから今いるんだよね、
「なんでそんな顔するの!?伝えてって言ったのあなただよ!?」
…確かに。確かにそうだけど。
困惑した私を見て、なつきは涙を拭い立ち上がった。
「私はっ!!私はッッ!!」
川に向かって大声で叫び始めた。
「私はずっと恋い焦がれている人がいますッッ!!
朝起きたとき。歯を磨くとき。トーストが焼けるのを待っているとき…
わたしの…ッ私の頭の中は!!その人でいっぱいなのですッッ!!
す、好きなんです…。
でも、直接…伝えられ…ない。
伝えたら…伝えたら…ッッ全てが終わる気がして。
だから!!こうして伝える!!!
好きです…!!!!!
私は!私は!!青峰美鶴が好きです!!」
なつき…。
「よっしゃぁぁ!!!!!言い切った!!!言い切ったよぉ〜」
天に拳を上げ、笑うなつきの目にはまだ涙があった。
「たとえ叶わなくてもいいんだ、みつるのそばに居れればいいんだ。」
独り言のように、自分に言い聞かせるように何度も呟いている。
私は…私はなつきの気持ちに答えられない。
…なつきの事は好きだ。
でも、そういう好きじゃない。
友達としての"好き"だ。
同じ好きでも、高い壁があるのだろう。
その高い壁…私がなつきを苦しめている。
「全てが終わることはありません。
その想い、しっかり伝えてみて下さい、ってみつるが言ったんだよ!?
そこはしっかりしてよね!?」
そう言って、キャハハと笑うなつきは
いつものなつきだった。
「みつるからのお返事はいらない!全て終わることは無い、その言葉信じてるから!」
私の目に猫のように笑うなつきが映る。
「伝えなきゃ良かったって後悔させないでよ!?」
「なつき…」
「もうこの話はおしまい!!明日からは普通にいつも通りだからね…あともう一つ!!」
綺麗な細くて白い指が1つのびる。
「みつるも…伝えてね。好きな人に想いを伝えてね?」
クルッと向きを変え走り出したなつきの背中に私は叫んだ。
「また明日ね!!」
振り向いて頷いたなつきの目から、涙がこぼれ落ちていた。
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