第9話 雨音

 「みつるご飯食べよう〜」

 

 

 頭上から声がし、私は目を覚ました。

 「あれ…授業おわ…った?」

 私は今日も伏せていた。

 「また寝て!授業ちゃんと受けなきゃダメだよ。」 

 前の子の椅子を借りて腰を下ろすなつき。

 「小言は担任だけで十分。」

 「そんな事言って!みつるのためを思って言ってるのに〜」

 「はいはい、ありがとう。」

 「塩対応〜」

 なつきはお弁当。私はおにぎり一つ。

 「いただきます」

 クラスの中心にいる女子グループが私達をちらちら見ている。

 「なつき、あの人達こっち見てるよ」

 「気にしなくていいよ、無視しよう」

 そう話していた矢先、女子グループが大声で話し始めた。

 「おにぎり一個とか笑えるんだけど」

 「可哀想〜」

 キャハハっと、笑い声が響く。

 

 …どうやら、標的は私のようだ。

 「みつる、気にしない無視無視。」

 なんだ、なつきも分かっていたのか。

 何を言ったらいいのか分からず、黙々とおにぎりを食べる。

 今日の具は梅干しだ…!!

 「最近、裕斗と青峰さん一緒に登校してるらしいよ〜」

 「え?マジ?似合わねー笑」

 「青峰さんとかクラスの底辺じゃん」

 「裕斗が汚れるぅ〜」


 いしだくんと登校してる所、見られちゃったか。やっぱそうなるよね。

 似合わない、底辺、汚れる…その通りですはい。


 「カチャーーーン」

 なつきが箸を落とした。

 「大丈夫?」

 「み、みつる、いしだくんと登校してたの?」

 なつきの顔色がどこかおかしい。

 「最近そうだよ。」

 慌てて箸を拾うなつき。

 「あっ、そうだったの。知らなかった、」

 そして、困ったように微笑んだ。

 箸を落とすほど驚くこと…か。そうだよね、私あんな人とかかわった事無かったから。


 「青峰、いらなくね?」

 「消えればいいのにー」

 いつの間にか悪口がヒートアップしていたようだ。

 いらなくね?消えればいいのに…そう言われるくらい、いしだくんと登校する事は凄い事なんだなぁ。

 

 カターンと椅子がどこかで倒れた。

 静まる教室。

 「お前ら馬鹿じゃねぇの」

 いしだくんだ。

 「黙って聞いてたら好き勝手言いやがって。」

 「えー何、裕斗キレてんの?」

 「青峰さんに失礼じゃないか?」

 漫画みたいな展開。

 「は?もー面倒くさー行こ?」

 ぞろぞろと出て行く女子グループ。

 

 そして、何事も無かったように会話が始まる教室。

 「みつる、ちょっとトイレ行ってくるね」

 駆け足で出て行くなつき。

 どこか顔色が悪い。


 教室の片隅でポツンと残された私は、再び机に伏せる。

 机に伏せるだけで、周りの音がよく聞こえる。

 特に今日は、激しい雨音が聞こえた。

 

 

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