第6話 再会

 ツンツンに尖った鉛筆。

 真っ白なスケッチブック。

 そして、キラキラ輝く川。


 放課後、私は川に来ている。スケッチをするためだ。昨日は描けなかったから、集中して取り組みたい。

 ジャージの裾をまくり、首にタオルを巻く。肩まで伸びた髪をひとつにしばる。

 暑さなんて関係ない、努力するのみ。


 …勉強も運動も、これくらい頑張れたらいいのだけど。

 私は絵を描く事が大好きだ。達成感や充実感はもちろん、一つの事に集中して取り組む事が楽しい。色んな見方がある事が面白い。

新たな発見もあったりして、退屈しない。


 どこを切り取ろう。あ、橋の下から描いたら面白いかも。


 そう思った私は、昨日荷物置き場にしていた橋の下に移動する。日陰はやっぱり涼しい。

 ひんやりとしたコンクリートの上に腰を下ろす。

 「…カランカラン」

 座った途端に、何かが転がる音がした。

 横を見ると、わずかな傾斜を小瓶か転がり落ちている所だった。

 「あっ…待って!」

 思わず手を伸ばした。

 どこか冷たい硬さが手の中にある。

 「あ…良かった。」

 あの時のように落ちる事は無く、無事にキャッチする事ができた。

 小瓶の中にはまた、メモが入っている。


 …開けていいのだろうか


 ふと、開けた時の罪悪感を思い出す。

 結局あの小瓶をどうすればいいのか分からず、机の引き出しへしまってある。

 小瓶で流すのは見知らぬ誰かが拾うためにする事だ。

 だから、私は拾っても良かったんだ!と、一人で丸く収めた矢先。

 今度は地面。

 地面って拾って良いものか?

 拾ってしまったけれども。


 こんな風に訳の分からない葛藤と少ない脳みそで出した答えはやっぱり「開ける」。

 ただ単に好奇心が勝ったのだ。


 「ポンッ」

 勢いよく、潔く小瓶を開け、逆さにし、メモを出す。

 今回は手紙のようなものだった。

 「私はずっと恋い焦がれている人がいます。

 朝起きたとき。歯を磨くとき。トーストが焼けるのを待っているとき…

 私の頭の中はその人でいっぱいなのです。

 好きなんです。

 でも、直接伝えられない。

 伝えたら全てが終わる気がして。

 だから、こうして伝える

 好きです、と。」

 …この人は、誰に恋しているのだろう。

 一人称がだから、女性か。

 でも、男性でも使う、かな。

 

 私はツンツンに尖った鉛筆をスケッチブックでは無く、小瓶の中に入っていたメモに向ける。

 そして、こう書いた。


 「全てが終わることはありません。

 その想い、しっかり伝えてみて下さい。」


 私はメモを小瓶に入れ、コルクで閉じ、元にあった場所へ置いた。

 

 

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