第2話 小瓶の中身

 「全く、みつるったら!なに川に落ちてんのよ!」

 

 私が脱いだセーラー服を絞りながら怒るなつき。

 

 「ちょっとボーッとしてたら、落ちちゃってさ」

 

 なつきが真顔で振り向き、私の顔を未確認生物を見るような目でじーっと見る。

 

 「な、なに」

 

 セミの鳴き声が耳の奥まで届き、暑苦しい。

 そして、タンクトップだから恥ずかしい。

 

 「ボーッとしてて、川に落ちるとかっ」

 ぷぷぷっと笑うなつき。

 

 そして、はぁーっと長めのため息をつかれた。

 「みつる絵は描けたの?」

 

 あ。そうだった、私は部活でスケッチをしに川へ来たのだった。

 

 「か、描けてない…」

 「もうー!何してんのよ本当、スケッチブックは濡れてない?」

 そもそもスケッチブックは鞄の中で、出してもいない。

 

 「大丈夫、無事。」

 

 「良かったね、みつる。ジャージは持ってる?」

 

 おもむろに手を伸ばし、私の鞄を漁るなつき。

 「持ってるわけ無いじゃん、こんな暑いのに着ないよ。」

 「それもそうか。」

 

 なつきがスカートをはたいて立ち上がる。

 「ちょっと待ってて!学校からジャージとってくるから!じっとしててね!」

 「え、いい…」

 

 また、言い終わらないうちに走り出すなつき。学校まで歩いて10分ほど。この強い日差しの中申し訳ない。

 

 私はスカートの下にはいていたハーフパンツのポケットから小瓶を取り出す。

 なつきにとっさに嘘をついてしまったな…

 ポンッと音をたて、さっき見れなかったメモを出す。

 

 メモは小さく折りたたまれ、瓶を逆さにすると、すぐ出てきた。

 

 触れてはいけないものを触るように、丁寧にメモを開く。

  


 「……あなたを、愛して…い、ます」

 

 メモにはそう書かれていた。

 

 私が拾ってはいけないものだと思う。

 あなたとは誰か知らないが、確実に私ではないだろう。

 

 今はただ、こんなモブが拾ってすいません、本当ごめんなさい。としか思わない。

 罪悪感でいっぱいだ。

 

 なぜこの人はラブレターを瓶に入れて川へ流したのだろう。奇跡なんて起こるはずないじゃないか。

 現にスケッチしに来たのに川へ落ち、ずぶ濡れになって上はタンクトップ、下はハーフパンツという女子高生とは思えない格好で友人を待っているまぬけな私が拾ったのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る