第4話 柔術を始めたければ始めればいいよ
『柔術を始めよう!』
と言っても良いんですが、6年もやっていると無闇に勧める気も枯れてきます。
個人的にはどれだけ楽しくとも、そう感じない人が居るのは仕方ないことですし、それは当然のことです。
まあそれでも、興味を持って始めさえすれば、その後の人生が少し良くなる人も居るでしょうから、語ってみましょう。
1.簡単に言うと、ルールが緩い柔道
ブラジリアン柔術はブラジルに渡った柔道が元となっています。今の柔術のルールは柔道とは違いがありますが、柔道も昔とはルールが変わっています。
オリンピックスポーツとして生き残るため、世界へ普及させるため、柔道はある程度、安全に分かりやすく、派手に変化しました。
ある意味では、ブラジリアン柔術の方が初期の柔道には近いんじゃないでしょうか。
基本的なルール(IBJJF)は、
・絞技、関節技でのみ一本
・投げ技は2ポイント
・その他、ポジションに応じてポイント
・打撃技は無し
という感じです。
2.ポジション
ルールに定められた体勢を取るとポイントが獲得できます。
例えば、相手の胴体に馬乗りになると(マウントポジション)4ポイントもらえますし、相手の後ろに抱きつき、足も絡んだ体勢になっても(バックポジション)4ポイントもらえます。
試合を進める上で有利になるから与えられるポジションもありますが、そうでないものもあります。
バックを取れば背後からの絞め技が狙えますし、相手が抜け出すことも難しいポジションなので当然ポイントがもらえます。
しかしマウントポジションは、見た目ほど有利なポジションではありません。仕掛けられる技はそれほど多くありませんし、逃げ出すのも他のポジションに比べれば簡単です。
それでもこのポジションに高得点が与えられるのは、“打撃ありなら非常に有利だから”です。
打撃無しの柔術ルールならそこまで有利じゃなくても、喧嘩なら有利だという理由での高得点。粋ですね。
このルールの為に柔術家はマウントポジションを狙いますし、そういう、自分に有利で相手に不利なポジションの奪い合いを普段からやっているので、他の格闘技と比べるとMMAや素手の喧嘩への適応能力が高いのです。
3.絞技・関節技・サブミッション
柔道と柔道の流れを汲む格闘技にのみ伝わると言っていい、特徴的な技が絞技です。
首を絞め、頚動脈か気管、もしくはその両方を塞ぎ、相手を降参させる技です。
降参しなかった場合、失神します。
関節を曲がらない方向に曲げたり、力を加える技を関節技といいます。降参しなかった場合、関節が外れたり折れたり、靭帯を切ったり痛めたりします。
サブミッションとは、英語表記だとsubmissionであり、服従や降伏といった意味です。相手を降参させる技のことで、絞技や関節技のことです。
よく関節技のことだと誤解されていますが、絞技も含んだ概念です。
4.醍醐味
体重50キロの人間が100キロの人間に勝てるとか、体重が80キロしかないのに世界大会の無差別級で優勝できたりとか、そういう“柔を能く剛を制す”的な話をすべきなんでしょうけど、個人的にはもっと面白い点があると思います。
それは“楽しく命のやり取りが出来る”という事です。
初めて出場した試合で、道場では見たことが無い技で失神した日、道場の代表がこう言いました。
「つまり君は今日、バーチャルで死んだ訳やね」
仮想的な命のやり取りで、何度も死ねるし、何度も殺せる。
殺し合いだから当然本気だし、バーチャルなので楽しくやれる。
それが柔術の一番の醍醐味です。
5.短所
アクション映画の格闘シーンを楽しめなくなります。特にカンフー。
『ジョン・ウィック』など、リアルさを売りにしたものは逆に楽しめますけどね。あれなんてモロに柔術使ってますし。
あと、痩せませんね。何の運動もしていなかったデブがやれば多少痩せるかもしれませんが、基本的には体重が落ちにくいのが柔術です。
非科学的なことを言うようですが、体重の増減を決めるのは摂取カロリーと消費カロリーだけではありません。消費カロリーが少ないジョギングは痩せるにはいい運動ですし、消費カロリーが大きい柔術は痩せません。
思うに、肉体が運動に適応しているんでしょうね。走ってばかりいるなら、軽い方が有利なので軽くなるし、逆に柔術ばかりやっていれば、重い方が有利なので痩せません。
最も大きな問題は怪我です。柔道やラグビーのように、脳や首に重大な怪我をすることは少ないですが、寝技だけとはいえ大きな怪我はあります。
というか、打撃系格闘技より重い怪我が多いでしょうね。寝技の動きの中で膝を捻って靭帯を切ったり、タップが遅れて肘の靭帯が伸びたり。試合で投げ合いをして、二人分の体重が自分の肩にかかって骨折したり。
ちょっとした手足の骨折なら軽い方です。
怪我で辞めてしまう人間もそれなりに居ます。
どんな怪我をしても辞めない人間も居るんですけどね。
6.柔術に興味を持ったら
最寄の道場へどうぞ。カリやシラット、サンボやジークンドー、クラヴ・マガ、カラリパヤトゥよりは、ずっと道場が見つけやすいですよ。
ボクシングやレスリング、柔道、日本拳法よりも見つけやすいでしょう。
空手よりは少ないですね。
身体が小さくても、精神的に向いていれば強くなれます。負けん気が強かったり、格闘技オタク的に知識欲があれば、そのうち強くなれますよ。柔術は自由度が高い競技です。ボクシングだとジャブが出来なければおしまいですが、柔術は投げが出来なくても、関節技や絞め技が苦手でも、戦術や戦法で補える競技です。
デブは柔術をやりましょう。
体重が重いという事が羨ましがられる、数少ない環境が柔術道場です。重力はあなたの味方をしてくれます。
体育が苦手だった人間も大丈夫です。球技だけがスポーツではありません。格闘技をやっている人間は、ちょっと異常なほど球技が苦手な人間が多いです。
あなたは運動音痴ではなく、球技や走るのが苦手なだけなのかもしれません。
たとえ本当に全ての運動が苦手だったとしても、コツコツ出来ることを増やしていき、相手の『出来ない』に自分の『出来る』をぶつければ勝てます。野球なら一点取っても次の回で取り返され、9回までに逆転できなければおしまいですが、柔術は一本取ればそこで勝ちです。
コミュ障でも陰キャでも問題ありません。というか、割とそういうタイプの人間は多いです。団体競技じゃないので、迷惑をかけなければ話しかけてくれますし、また放置もしてくれます。
とにかく、興味があったら道場へ来てください。
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