第3話 神殺しの模倣――あるいは、模倣の模倣――

 ――あ、……、あー、あーあー。テステス。……OK~、声拾えてるね。そんじゃあまあ、おはよう、こんにちは、こんばんは。僕が誰であるとか、僕がなぜこのようなことをするのか、そんなことはあまり意味が無い。つまりだ、僕はやりたいからこれをやるわけで、人間の行動原理は……究極、それだけで説明がつくものだと思っている。で、まあこの録音が公開されている頃には僕はきっと捕まっているだろうし、あるいは未だに逃げ伸びているかもしれない。僕の希望としては本物に惨殺されていることを切に願いたいところではあるがね……。

 僕はある種の信者だ。『彼』を崇めている。なぜ? それも意味のない考えだ。それを知った瞬間から心底酔ってしまった、ただそれだけのことだ。『ただそれだけ』とはなんと便利なキラーワードであろうか……。まあ、だから僕は『神殺し』という存在に心酔してしまったのさ。

 未だ都市伝説の域を出ない『神殺し』との出会いは割愛する。それは本筋とは異なる出来事であるからだ。今何が重要かといえば、僕が崇拝し心酔する『神殺し』の偉業をこの手で成し遂げようという願いだ。

 優秀な君たちは既に一人の少女が行方不明になっていることは承知している事であろう。信憑性を高める代わりに、よりイマジネーションを刺激する言い方として〝とあるプロモーションされるアイドルたちの中の一人が行方不明〟としておこう。その少女を誘拐したのが僕である。すでに一月ほど経っているがその間、その少女を拉致監禁し続けていたのはこれから行う饗宴のためである。下準備にはとても時間をかけてしまったが、その成果が遺憾なく発揮されることを望む。そして、どうか最後まで君たちには愉しめる〝ショー〟であることを切に願いたいと思う。


 神殺しを執行する前に、僕が施した下処理について少し説明しておきたい。これは音声のみでお送りしている僕の行動を補完する役割があると留意して聴いていただきたい。

 まず僕は、さらって来た少女の体内物質を除去した。まあ、体内物質といってもただのうんこの排泄と胃の内容物を吐かせるだけのことだけど。で、少女にひたすら、執拗なまでに浣腸を繰り返して腸内洗浄をした。ありったけ浣腸した少女の腹は風船にされた蛙みたいで実に滑稽な姿だったよ。膨らんだ腹を押し込むと、フゴッ、って少女は唸ってぶりぶり、ぶりぶりと糞をまき散らした。臭い、汚らわしい、何喰ったらこんな下品な糞になるんだか……そう思ったね。アイドルだからって糞しないわけではないのは承知だろうけど、こうも悪臭が酷いのはちょっと複雑な気分だったよ。便秘でも拗らせてたんだろうかね? といった感じに浣腸を繰り返してケツ穴から排泄される汚物が無色透明無味無臭になると満足した僕は次の作業に移った。ああ、〝無味無臭〟ってのは誤謬じゃなくって、もちろんこの子のうんこを食べたから解ったことだよ……。

 次は水をありったけ飲ませて腹を――これも前述した通り蛙の腹みたいで滑稽だった。そんで、少女の腹を滅多打ちしてゲロさせた。ひたすら、ひたすら殴って、殴って、泣き叫びながら吐き散らすゲロも悪臭。もう何なんだって感じだったね。美少女なんてフィルター越しに観ない限り只の人間なんだよ。薄汚い蛆虫同然の駄肉の塊さ……。こっちも吐き出す物質が無色透明の無味無臭になるまで腹パンし続けました。もちろん、黄色だか茶褐色だか乳白色だかの嘔吐物はおいしくいただきましたともさ。くかか……。

 そして、この下処理が最も苦労したものなんだけど……。とても重要なことだからあらゆる手段を行使して施術に臨んだ。とても大変だった。予定外の死者も出てしまった。知っているだろう? 大学病院の女医さんが殺害された事件を。あれ、僕の仕業なんですよ。最も、報道されている内容と僕の下した処刑方とでは雲泥の差があるけれど……彼女には金属やプラスチックを溶解するのに用いる劇薬でドロドロになってもらった。凄い光景だったよ……。あれはあれで趣深いものがあったよ。話がそれちゃったけど、つまり僕は医療器具や幾つかの有用な薬品が欲しかった。そしてそれらを手に入れたってこと。

 アイドルの少女に戻ると……胃の洗浄と腸内洗浄を終えた彼女に麻酔をかけた。医療的な知識の乏しい僕には酷な作業だった。麻酔の効いてきたのを確認した後、僕は躊躇いながら胸を十字に切り開いた。べろりと皮の剥けた柘榴のように、もしくは〝有名な〟エイリアンの卵みたいに、にちゃりと広がる胸肉。何がしたかったか? 僕は鋸を手に胸の内側を覆う肋骨を切断したのさ。出来る限り背骨に近い処から一本一本、細心の注意を払いながら切断していった。わりと大雑把な性分の僕には、あまりに集中力を問われる繊細な作業で、実にイライラしたね。骨粉を吸引器で吸い込みつつ鋸を引く。腕が痺れた。少女の開胸された内側の血の臭いが我を忘れさせようと襲う。助手もいない状況でこんなにも不毛なことを行う僕は馬鹿なのか……自問自答。いやあ、実に大変な施術だったよ。肋骨の最後の一本を切り終えた後の、胸骨を取り出す瞬間はそんな苦難のかいあって想像以上の興奮を僕にもたらした。かぽっ、とチープな音を立てて外界に曝け出された胸骨は芸術的美しさだった。血に濡れた足の多すぎる蜘蛛の姿をした異形。脳裏に強く焼きつけられるシルエットだった。また、曝け出された臓器の様子もなかなかどうして……。

 まあ、その後は至って雑な処置になってしまった。僕は必要以上の集中力を少女の肋骨と胸骨の切除に費やした為に大分疲弊していたからね。さくっと、切り開いた胸を縫い合わせて。まるで幼児のおぼつかない手つきで縫い合わされたぬいぐるみみたいな縫合になってしまった。 で、その後の処置が余計だった。微量の火薬を縫合部に散らして、炸裂させたんだ。こう……なんていうのか、映画的に傷口がうまい具合に癒着すると思ったのさ。結果は散々。肉の焼けこげる臭いが辺りに立ち込め、縫い目は焼けて癒着しているように見えたけど、日を置いていくにつれ、のたくったミミズのようなケロイドが浮き上がっちゃったわけ。僕は傷口を早く塞ぎたかっただけなのに……。少女の胸には大きな十字架が刻印されてしまったのさ。それも見るに悍ましいケロイドの隆起したみすぼらしい姿で……。

 これが大体の、僕が少女に施した下準備の詳細だ。後はこの日までこの子には点滴と僅かな水分で生きながらえてもらった。

 さて、諸君。果たして僕がこれから行う儀式がいかなるものかお解りだろうか? あるいは聡い諸君らには既に、ご理解戴けているのではなかろうか?

 それでは、これから僕の神殺しを執行したいと思う。


 ディシズ、トーチャータイム。スタートだ!


 さて、諸君ここが如何なる場所であるかだが、とある廃工場の倉庫という事にしておこう。別に君たちの想像が、僕の所在地を倉庫であると決めつけてこの音声を聴く必要はないよってことだ。諸君には平等に自分の望むシチュエーションがあるだろうからね。でだ、少女は鉄骨の梁に鎖で両手を縛り上げて吊るしている。サンドバッグみたいなものだね。いやいや、まさしくこれからサンドバッグになってもらうんだけどね。はは、震えてるねー。怖いんだろうねー。でも駄目~、もうこれは決定事項、きみは何があろうと絶対に助からない。僕の養分としてその短い生涯を終えるわけだ。

(少女の恐怖に満ちた絶叫が反響している)。

 …………、ぎゃーぎゃーうるっせーなあ!(肉をしたたか打ちつける音が盛大に響く。と同時に鎖の軋む音、少女の嗚咽、嘔吐くような呻き、静寂)あっは! これまた盛大に吐き散らしたね。酢っぱ! 顔に掛かったわ。くひ……。

 失礼した諸君。いささかサディズムな嗜好になるが……五感をある程度遮断することによって他の感覚が鋭敏になるとはよく聞くが、はて?……可能な限りで幾つかの感覚を潰そうではないか。(強烈な破裂音と絶叫)掌底で両耳を潰させてもらった。こう、両手で、バシーンと挟む感じに。合掌みたいに。両耳の鼓膜は破裂したね。耳から血が溢れてくる。まずは聴覚を殺す。次は……まーうるせえから取り敢えず口は塞ぐか。これから何度も顔にゲロされるのも臭いしうざいし……へへ。

 と、口にボールギャグ噛ませて、視覚かな。まあ、両眼を潰すのもありだが……可哀そうだから目隠しで勘弁してあげる。僕も鬼ではないからね。多少の優しさは残っているさ。

 うん。静か静か、別にぎゃーぎゃー騒がれるのも有りだとは思うんだけど、今回それは無し。個人的に虐待するのならいいけど、それは今日のこれには不要かなって……それがお好みの方は脳内補完でよろしくお願いします。

 さてさて、結局五感を無くすのはこの二つが限界だな。でも、視覚と聴覚って最も重要な感覚だと思うんだよ。これがないと相手の行動が予測できないじゃない。つまり、僕の行使する暴力の恐怖は倍化するだろうし、不意を突かれた打撃は相当な痛みを伴うと思うわけよ。身悶える少女とか超興奮するでしょ。これはもう映像として保存できないのが残念でならない。であるなら、動画にしろってか? まあ、それも考えたさ。しかし、より多く広く拡散されるようにと、音声形式で記録することにしたの。なんか動画とかすぐ消されそうじゃん? あーまあ、こういった趣向も試したかった、ってことで留意いただきたい。

 脱線したね。本筋に戻ろうか。この子、この女の子、今凄く絵になる構図だよ。両手が吊り上げられる。鎖で。宙ぶらりんの少女の裸体。目隠しをされボールギャグを噛まされ。両耳からは血の筋を奔らせて。良い眺めだ。後は……(なにかにがっちりとはめ込まれているものが外れる音。少女のうめき声らしきもの。再びなにかが外れる音。じゃらり、と鎖の音)ふう。両足の股関節を外した。ぶちのめしてる間にじたばた抵抗されるのも鬱陶しいからね。ああ、おしっこ漏らしてらー。勿体ない。……うぐ、うぐ、うぐ、ぷはっ、生搾り〝しっし〟うまあ~、うっとりだね。水と点滴しか彼女には与えてないから無味無臭に近いけどね。それはそれ、嗜好品ってのは、それを嗜好するものからすれば最高の一品なのさ。そして、最後にこの特大のアナルプラグを……こう、やって……ケツに刺し込めば(されるがままの少女の悲鳴はボールギャグを噛まされているからか不明瞭)……はい、準備完了。本番はこれからだよ、諸君。


(三分クッキングのBGMが流れる)

 えー、大変ながらくお待たせしました。それでは本日のメインイベント、女の子フルボッコタイムはじめる、よ!!!(ズドン、と腹に圧し掛かるような衝撃音。激しく鎖がもつれる音。口を塞がれているとは思えない声量でうめく女声)これを、やる、ために、僕は、必死来いて、この子の、胸の、骨を、取り、除いた。(断続的に鳴る肉を打つ音)とても、新鮮な、殴り、心地❤ やば、これ、やば、すぎ、る、はっ❤(鎖が上げる、ジャラリという音。一定の間隔で腹部あるいは胸部を殴りつけられる音)

 ふう……、おっと、血尿が流れてきた。勿体ない。ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、ぷは。うん、血の味だわ。おそらく膀胱が破裂……肝臓かな? 解らんが……でも間違いなく内臓は損傷しているはずだよ。少女の腹を触れば解る事だが、実際、ただ無闇に殴った処でこんな薄い腹なんて破けてしまうんだよね。グシャッ、と、ドロッとね。肋骨があれば殴る側の僕の拳はすぐに使いものにならなくなるだろう……だから、人間を殴るって一口に言ってもそんなに簡単なことでもないんだよ。それには、習熟した技術がいる。こんな風に掌を少女の腹に添えて――撃つ!(バシャン!)ははは、振り子時計みたいにぐらぐらしてら~。ひひひ。ボールギャグの穴から血が溢れてるね。そりゃー内臓を直接破壊する『発勁/はっけい』を喰らわせているんだ! そうなって当然だ! 僕は君の内臓を生きたまま、切り刻むこと無く、グチャグチャに破壊したいんだ!

 拳は本来押すのではなく、撃つものなんだよ。そうすることで必要最低限の打数で内臓を効率よく破壊できるわけ。

(グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン)

 へー、生理かな? じゅる……違うねこれ。子宮辺りが破裂したのかな? ふん、どことなく身体も変形してきてるからそうだね。いい感じに内臓が体内でぐちゃ混ぜになってるんだろうねー。想像しただけで……あは❤ イキそうだ~❤ そのぐねぐねと歪ませた身体の中身は一体全体どうなってるのかな? 赤黒く変色したお腹の中はどうなってるのかな? 止めどなく出血するマンコの奥は? 潰れたおっぱいの奥は? 吐きだされる血は肺から? 胃から? ああ、今にも身体を引き裂いて中身を確認したい衝動に耐えられないよ。

 でもでも、ここまで我慢してきたんだから最後までやり遂げて、最高の愉悦感に浸ろう……。

(グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャン、グシャウ、グシャ、グしゃあ、ぐ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、に、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ、にちゃ)

 ああ、なんだこれ? 少女の身体がまるで粘土細工みたいにふにゃふにゃだ。我ながらこうまで上手に出来るとは思わなかったよ。なにこれ? はは、背骨折れてるのかな? 捻じれてだらっとしてて、少女の身体が伸びてる。全身真っ赤。触れるとぷにぷにの〝新・触感〟だ。このまま腹を掻っ捌けばどろどろヘドロの混ざったゲロみたいな内臓が吹き出すんだろうな。生臭くって、血の甘い匂いがして、それでいて醜悪なモザイク柄の液体。血。ぶよぶよの脂肪。……なんて形容しがたい姿形なんだろうか! このだらしなく伸びきった肉体がアイドルをやっていた女の子のものだなんて!

 あははははははっはははははっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは――。


 さて諸君、ここまでご静聴いただきありがとう。これまでの諸君らの紳士淑女振りのおかげで僕の偉業はここに完成することだろう。この偉業は今後諸君らが伝聞吹聴することによって完結されることだろう。あと少しだけ、僕の声に耳を傾けていただきたい。なに、そう長くは時間を取らせたりはしないさ。


(ベルトコンベアーの稼働音のような〝ウィーン〟という奇妙な音)


 ここに一つの機械がある。これは所謂〝アーム〟なんだが……知らないかな、災害現場なんかで活躍する瓦礫を取り除くあれ。巨大な鉄の手とでも言えば理解も速いだろうか? まあ、なぜそれを今に至って持ち出したか? 至極真っ当な疑問だと思う。少女をフルボッコにするのが目的だったのではないかと? それもある。しかし、僕の真の目的は〝これ〟無くしては完結しないんだよ。あははは、そう。察しの良い君たちになら解るだろう? 僕の神髄を。

 この〝アーム〟で彼女、だったものを掴むのさ。何故? おいおい、今更なぜもないだろう。これが欲しかったからこれまで僕も点滴とごく僅かな水で生活してきたのだから……。

(機械の稼働音。なにか生ものでも鷲掴みにした音。ごりごりという骨の軋む音。粘性の強い液状の物質を絞る音に酷似した汚らわしい響き)

 もう、このアナルプラグは必要ないね。

 こいつを引き抜いて


 僕は

 少女の

 ミンチになった

 内臓を

 少女の

 肛門から

 啜る


 じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる、じゅるじゅじゅじゅじゅじゅ、る、るじゅる、じゅるり、じゅるるり。

 ぷっはあーーーーーーーーーーーーーごちそうさまでした!

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