Lesson01「野良」

 野良。なかなかに生意気で、触れることが困難である。だがその警戒をすり抜け、如何に到達するかがまた面白味というものである。

 最初から餌付けされ、自ら甘ったるい声で鳴き、近寄ってくるものなど邪道である。もちろん触るが。


 ただ、こちらを避け、絶対に心を許さないのなら無理に近づいてはならない。

 彼らは生後2週間から7週間ほどで自分の仲間を認識しており、その間我らと触れ合わなかったものは決して心を許してはくれない。


 さて、そんな彼らに見事近づけたのなら、そっと目的を達成しよう。

 彼らに触れた瞬間、野性味溢れる、少し抵抗のあるごわっとした感触があなたを襲うだろう。

 大丈夫だ。毛は噛みつきはしない。精々その身にまとった砂などの戯れを残すだけだ。


 所々毛が絡み、くっつき、独特の、それでいてそのものが歩んできた歴史を孕んだ重みを感じることだろう。

 あなたはそれに身をゆだねても良い。


 近づき、針の筵のような警戒を突破し、あるいは潜り抜け、今到達したあなただけのご褒美である。


 ひとしきり触れたあとは、そっとその手を流してみると良いだろう。

 艶のある野生は少しの抵抗や荒野のような毛の流れを見せつつ、その背を往くあなたの手を迎える。


 さて、あまり長居をしてはいけない。

 彼らは慣れぬものであり、その寛容さで一時を許しはしたろうが、それを察せられずに居座り、我が物顔で続ければ、たちまち厚顔無恥の君は、次から近寄ることさえできない追放処分となってしまう。

 もちろん献上品があれば話は別だろうが、それは美しくない。


 最後に。言い忘れていたが、彼らが喜ぶよう、しっかりと撫で上げるようにしよう。相手を喜ばせるのを忘れてはならない。これは紳士淑女のマナーである。

 無論、この本に行きついたあなたなら、ある程度の教養と、彼らの喜ばせ方を知っているだろうが。


 そう、顎や頬のあたりだ。彼らはそこからニオイを出すため、常にむず痒い思いをしている。

 感謝を込めてその痒みを和らげてあげよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る