第66話 何にもなかった

 やあ、おいらです。


 今日はノースコリアの気狂い兄ちゃんは何にもしませんでしたね。だからって、前回のエピソードを訂正したり、削除したりはしませんよ。身の危険を感じるまではね。

 まあ、核攻撃による第三次世界大戦の日が一日遅れたってことですね。喜ばしいことじゃありませんか。花子さん。


 そういうわけだから、おいらは鴨居大橋から鶴見川から飛び降りることもなく、半死半生になることもなく、ましては『転生法人 ネクストワールド』のプリンちゃんに異世界に案内されることもなく、平凡な一日を送った。そして、睡眠薬を飲んで、お布団に入って、カクヨムを眠くなるまで閲覧するわけだ。まずは小説管理で各作品のPVが増加しているかをみる。増えていない。やっぱり、新作を書かなきゃダメね。ついで、マイページのユーザーの方を見る。小説は面倒くさいから登録していない。嫌われる原因の一つだな。ああ、運営様。マイページ最初に出るのを小説か、ユーザーかおいらが決められるようにしてください。おいら小説いらないので。

 ユーザーたって、一桁である。おいらと違って、みなさんお忙しいから、滅多に新着記事はない。

 それから近況ノート新着を見る。「初めまして」や「更新しました」といったつまらない記事や、もっとつまらない「●●さま、フォローありがとうございます」ってのが並ぶ。フォローまでお礼を言うのかと、少し呆れて見てたんだけど、案外、★稼いでるんだよね。その作品。おいらもやるか? たぶん、面倒くさいから続かないな。


 さて寝るかと、思ったら、女性の声がする。『転生法人 ネクストワールド』のプリンちゃんだ。

「おいらさん。異世界に行く時間ですよ」

「戦争は起こらなかったんだぜ。疎開する意味はない」

「甘ちゃんですね。のんですね。今日は平気でも明日が安全と言えますか?」

「そ、それは……」

「死んだら、当社では異世界転移できません。できる法人は無理難題を押し付けてきます。暗黒な魔王を征伐させたり、邪悪なドラゴンと戦わされます。その点、我が法人は危険度ゼロ。疎開生活をエンジョイしていただけます」

「申し込もう」

 おいらは電子契約書にサインした。

「ありがとうございます。では早速ですがまいりましょう」

「ちょっと待ってくれ。荷物の準備をする」

「その必要はございません」

「着るものとか、非常食とか、スマホがいるだろう?」

「着るものはいりません。皆、裸で過ごしています。食料? 無尽蔵にございます。スマホ? 電気が通っていないので使い道がありません」

「どこへ連れて行こうと言うんだ!」

「ノアさんの船です」

「ノア? 船? ノアの箱舟か!」

「ご名答」

「おいらやだよ。何十日も雨が降るんだろ。湿気って大嫌い。他にないの?」

「特別ですよ」

「なんだ、あるんじゃないか」

「衣食住は保障されますが、人間の尊厳が失われるかもしれません」

「エアコンは付いているか?」

「はい」

「冷蔵庫は?」

「もちろん」

「水は浄水か?」

「お望みなら」

「トイレはシャワー付きだろうな?」

「当然です」

「日当たりは?」

「最高です」

「決めた。そこにする」

「人間の尊厳はいいのですか?」

「構うもんか」


 おいらは今、大宇宙動物園というところで屋内展示されている。最初は恥ずかしかったが慣れた。今日も客の眼の前でオナラをしてやった。屋内だから臭うはずはないが、嫌な顔をしていた。ふふふ、爽快だぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る