第58話 サライの空は……
やあ、おいらです。
前回、ジャパンテレビの24時間テレビのチャリティランナーに指名されたおいらはテレビ局のバンに乗せられて“出入り自由の監獄”をでた。おいらはてっきり、日本武道館に行くのだと思っていたのだが、実際に連れていかれた場所は街灯もない農耕地だった。ここがスタート地なのか? あまり人目につかないように、こんな真っ暗なところを選んだのだろう。たぶんだけど。しばらく車で待機していると「ぺこりさん、お願いします」とスタッフから声がかかる。おいらが表に出ると十人くらいのスタッフらしき人々がいた。思ったより少ない。こんなんで安全に走れるのであろうか? そう考えていると、この場の責任者と思しきディレクターがやってきて「ブルゾンちえみはキャンセルになりました。代わりにブルマーひばりが来ます。ちょっと待っていてください」と言う。なんかこの辺からおいらは胡散臭さを感じていた。チャリティランナーなんてやめてビールが飲みたい。近所のデニーズで、500円でビールとつまみ一点を選べるセットをやっている。考えるとよだれが出た。
一時間後、ブルマーひばりが来た。思ったよりキュートな子だった。高校時代、陸上部にいたそうだ。なかなか役に立ちそうだ。午後九時に斎藤清六(わかるかねえ)が「村の時間。いや、マラソンの時間がやって来ましたあ」と言ってピストルを撃った。このピストルが競技用でなくて、トカレフだったから驚いた。ディレクターと斎藤清六はおいらたちの出発後に警察に捕まった。当たり前だ。
おいらと、ブルマーひばりは先導の中岡トレーナーについて、夜道を走った。明るい通りには一向に出なかった。暗い道をひたすら中岡トレーナーについて走った。でも、おいらの記憶が正しければ、24時間テレビのマラソントレーナーは坂本さんではなかったか。坂本は海援隊。中岡は陸援隊。同じところで暗殺されているな。まあ、いいか。
長距離を走ると膝にくる。股関節にもくる。おいらたちはくらい夜道の途中にある、休憩所でマッサージをしてもらい、水分補給をし、軽食を食べた。
夜が明ける頃、第二ディレクターが叫んだ。「おい、早く着きすぎている。もっとゆっくり走ってください」おいらは疑問に思った。ここは都心でも東京でもない。おいらの勘では山梨県だ。これじゃあ、午後八時ごろに日本武道館には全然間に合わない。なのに早く着きすぎているとは何事か! おいらは第二ディレクターののんきぶりに怒った。どう言うことだ! すると第二ディレクターが言った。「ぺこりさんの役目は日本ぶどう館に到着することです」へっ? 日本ぶどう館? 「はい、そこで、ぶどうの早食い競争に参加していただきます」それって、チャリティになるの? 「食べたぶんだけ寄付してもらいます」お金ないって言ってるでしょ。おいら食べないよ。「ブルマーがしこたま儲けているので、出してもらいましょう」ならばよし。
おいらは荒れ狂ったように、ぶどうを食べまくった。他の人のぶんまで食べた。ギャル曽根に勝てそうな気がした。おいらは圧倒的勝利を収めた。寄付金はブルマーが渋々払った。
帰りの車の中で、おいらは猛烈に眠くなった。睡眠薬も飲んでないのに、眠くなるのはおかしい。
なんか盛ったな。おいらは叫んだ。
「ふふふ、バレましたか。あんたは、高値で売れるんでね」
つまりは人さらい、じゃなくて、くまさらい。
♫桜吹雪の サライの空は♫
さらい違いかよ。おいらは急速に意識を失った。
気がつくと“出入り自由の監獄”で寝ていた。夢オチだったのか?
でも、身体中、筋肉痛だよ。どっちが正しいんだろう?
※このエピソードは、エッセイなのにフィクションです。
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