奇談その四十五 バレンタインの呪い

 卓司は二月が嫌いである。バレンタインデーに女子からチョコレートをもらった事がないからだ。そして高校生になってそれがより強くなった。クラスメートの亮輔がクラス中の女子からチョコレートをもらったのだ。

(来年は別々のクラスになりたかったのに)

 二年になっても卓司は亮輔と同じクラスだった。

(また今年も嫌な時期になった)

 二月に入ると卓司は憂鬱な気分で高校に行っていた。

「おはよう」

 亮輔は卓司を親友と思っている。成績もトップを争い、スポーツでも一位と二位を争っているからだ。しかし、卓司はそんな事は考えていなかった。

「おはよう」

 卓司は気のない返事をし、足早に亮輔から離れた。

「何だ、あいつ?」

 亮輔は素気ない態度の卓司を妙に思った。


(亮輔なんかいなくなればいい!)

 卓司は強く願った。


 バレンタインデー当日。亮輔の姿はなかった。女子達がざわついている。自分が願った事が叶ったのかと思った卓司だったが、

(たまたま休んだだけだ)

 考えるのをやめた。

 だが、亮輔は本当にいなくなっていた。朝、家を出たきり姿を消してしまったらしく警察が動いていた。卓司は怖くなって震えた。すると女子の一人が、

「卓司、あんたが亮輔君に何かしたんじゃないでしょうね?」

 その言葉をきっかけにしてクラスの女子達が卓司を取り囲んだ。

「そんな事する訳ないだろ!」

 卓司は声を震わせて反論したが、

「チョコを誰からももらえないので亮輔君を逆恨みして、酷い事したんでしょ」

 別の女子が詰め寄ってきた。卓司は反論できずに俯いた。

「そんな事言ったら卓司君が可哀想だよ」

 卓司が思いを寄せている真悠が間に入った。

「よかったら受け取って」

 真悠がラッピングされた箱を卓司に渡した。

「ありがとう」

 卓司は嬉しさのあまり涙をこぼした。

「開けてみて」

 真悠が言った。卓司は頷いてリボンをほどき、蓋を開けた。その途端、中からおもちゃの蛇が飛び出して卓司は腰を抜かした。

「あんたのせいで亮輔君がいなくなったんだ。これから先も徹底的にいたぶってやるからね」

 見上げた先にある真悠の顔はまるで魔女で、

(どうして僕が亮輔を呪ったのを知っているんだろう?)

 卓司はそれも怖くなった。

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