奇談その四十六 転生怖い
卓司はフリーター。今の自分は異世界から転生してきた女子高生だと思っている。だが、誰にも話した事はない。取り立てて能力が高い訳ではなく、容姿も頭脳もそれ程上級ではないと思っているからだ。それでも何故卓司は自分が転生した者だと考えているのかと言えば、
「何となく」
それだけだった。要するに妄想である。
「転生する時は、多くの場合、不慮の事故である」
そんな話をあるサイトで見た事がある。卓司は普段ほとんど外に出ない自宅警備員状態であるが、もう一度転生するために時々外に出かけていた。
「ぐわ!」
そんな時だった。卓司は脇見運転をしていたトラックに跳ね飛ばされ、アスファルトの地面に叩きつけられた。周囲に人が集まってきて、やがて救急車のサイレンが聞こえてきた。
卓司は救急車で近くの大学病院の救急医療センターに運ばれ、すぐに手術を受けたが、手術は失敗に終わり、卓司は医学上は死亡した事になった。
『おい、俺はまだ生きているんだぞ! 何故手術をやめたんだ?』
卓司は必死になって訴えたが、彼は医学的には完全に死んでおり、声は出ず、瞬き一つできなかった。そのため、そこにいる誰も、卓司が実は死んだように見えているだけだという事に気づいていなかった。
やがて、卓司は葬儀社の車に乗せられて斎場に運ばれた。卓司が住んでいた家は狭くて、死体となった卓司を安置する場所がなかったのだ。そしてその日は家族は帰宅し、卓司は誰もいない真っ暗な斎場に棺に入れられて残された。小さい頃から怖がりだった卓司は暗闇、棺という閉所、更にたった一人という現実に気が狂いそうなくらい恐ろしくなった。だが、どうする事もできなかった。そんな恐怖と戦っているうちに卓司は意識を失った。
今度こそ本当に死を迎えたのかと思ったが、また暗闇で目が覚めた。相変わらず身体は動かない。やがて、棺の各所から耐え難い熱が伝わってきた。最初はわからなかったのだが、それは炎の熱だった。卓司は今まさに火葬されていたのだ。
『俺は生きてるんだよおお!』
誰にも聞こえない声で、卓司は絶叫した。そしてそれから約一時間半後、卓司は骨だけになった。当然、転生もしなかった。
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