奇談その三十二 墓参り
卓司は中学一年。小学二年の時、幼稚園からの親友の亮輔が交通事故で亡くなった。下校時に二人でふざけ合っていて、亮輔が舗道の縁石に躓いた。そこへトラックが走ってきたのだ。卓司は、
「僕のせいだ」
そう思い続けており、五年経った今でも、怖くて亮輔の墓参りに行けないでいる。
そんなある日、卓司は思わぬ再会をした。一年の時から片思いをしていた繭子にばったり会ったのだ。繭子が五年の時に転校して以来だった。
(あの時も可愛かったけど、今はもっと可愛い!)
卓司は薄れかけていた繭子への思いが沸き上がるのを感じた。
「久しぶりね、たっくん」
昔と同じ呼び方をしてくれた繭子に、卓司はキュンとしてしまった。
「亮ちゃんのお墓参りに行くところなんだけど、一緒に行く?」
繭子に誘われて、卓司は一瞬気後れしたが、
「行かないの?」
繭子に小首を傾げられて言われると、
「行こう!」
妙な義務感に駆られ、決断した。
憧れの繭子と二人で亮輔の墓に向かった卓司だったが、何を話したのか、どこを通ったのかもわからない程舞い上がってしまい、気づくと亮輔の墓の前にいた。
「亮ちゃん、ごめん」
卓司は止め処なく流れる涙を拭う事なく手を合わせた。
「よかった、亮ちゃんとたっくんが会えて」
繭子の声が聞こえた。
「え?」
卓司は繭子を見た。繭子は笑顔で卓司を見ている。
「私もたっくんに会えてよかったよ」
そこまで言われて、卓司はようやく全てを思い出し始めた。
「そうだよ、たっくん。亮ちゃんが交通事故に遭ったのは、私のせい。私が亮ちゃんを突き飛ばしたの」
繭子は嬉しそうな顔をしている。
「そうだ、そうだった」
卓司は膝が震えて逃げ出す事ができない。繭子はニヤリとして卓司に顔を近づけ、
「それだけじゃないよね? もっと大事な事を覚えていないの?」
卓司は繭子の顔に圧倒され、尻餅を突いてしまった。ふと見上げると、繭子の手が血だらけになっていた。
「うわああ!」
卓司は転がるようにその場を逃げ出し、道路に飛び出してトラックに跳ね飛ばされ、
(そうだ。それから何年も経って、繭子が亮ちゃんを殺したって知って、僕は……)
繭子を突き飛ばして交通事故に遭わせたのを思い出した。
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