奇談その二十九 メリーゴーラウンド

 卓司は大学一年。だが、二浪しているので酒も煙草もOKな年齢である。

(女と遊びてえ!)

 大学生になれば、女子達と青春を謳歌できると考えていた思考が昭和な卓司は夏休みに入っても女子達と仲良くなれないでいた。

 そんな卓司の前に奇特な女子が現れた。その子の名は良子。九州から出てきた純朴そうな子である。

「私でよかったら、付き合ってください」

 卓司は喜んで良子の告白を受け入れ、都内の有名な遊園地でデートをする事にした。

「メリーゴーラウンドに乗ろうか」

 観覧車にトラウマがあるような気がする卓司は良子に言った。

「そうですね」

 現役合格の良子は卓司に対しては常に敬語である。それも心地いい卓司である。

「あ」

 ところが、良子がメリーゴーラウンドを目前にして尻込みした。

「どうしたの?」

 卓司が俯いた良子の顔を覗き込んで尋ねると、

「お婆さんが乗っているんです」

 奇妙な事を言った。卓司はメリーゴーラウンドを見渡した。すると、馬車に真っ白な髪をおさげにした老婆が一人で乗っていた。

「いや、これは年齢制限はないからさ。お婆さんが乗ってはいけないって事はないよ」

 卓司は良子を宥めすかして何とかチケットを買い、乗り込もうとしたのだが、今度は入り口のところでまた良子が立ち止まって動かなくなった。

「どうしたの?」

 卓司は少しイラッとして声をかけた。

「お爺さんがいるんです」

「はあ?」

 卓司はもう一度見回したが、乗っているのは老婆だけで、老人はいなかった。

「あそこですよ!」

 何故か良子が声を荒らげて指差した。しかし、そこにいたのは自分達と同年代の若い男だった。しかもイケメンなので、また卓司はイラッとした。そして、

「俺だけ乗るよ。君はあの男と乗れば?」

 そう言い捨てると、良子を置き去りにして馬に跨った。

「わかりました。もう、知りませんよ」

 良子は妙な事を言ってその場を離れた。卓司はその言葉に首を傾げたが、メリーゴーラウンドが回り始めたので、考えるのをやめた。そして何回か回って終了となり、立ち上がろうとしたが、足が思うように動かない。

「大丈夫ですか、お爺さん?」

 係員に手助けされて降りた卓司は、どこからどう見ても老人だった。

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