奇談その二十六 ジェットコースター

 卓司は小学五年生だが、身長は低く、低学年くらいに見える。そのため、遊園地のジェットコースターに乗ろうと思っても、身長制限に引っかかり、乗る事ができない。あちこちの遊園地で挑戦してみたが、どこも同じで乗車を断られてしまった。

 それでも諦め切れない卓司は年の離れた兄のパソコンをこっそり起動して、日本各地の遊園地を調べてみた。だが、いくら探しても自分の身長で乗れるジェットコースターがある遊園地は見つからなかった。

(ダメか……)

 大きな溜息を吐き、ブラウザを閉じかけた時、「誰でも乗れるジェットコースター」というサイトを見かけた。最後の望みをかけて、そこをクリックした。

「G県P市?」

 北関東にあるジェットコースターに身長制限がないものがあると表記されていた。しかし、G県P市は卓司には遠かった。しつけが厳しい両親が一人で行くのを許してくれるはずがない。

(無理だな)

 卓司は今度こそ終わったと思い、ブラウザを閉じかけた。ところが、

「希望者には送迎車を用意します」

 信じられないような事が一番最後の行に書かれていた。しかも、ネットで簡単に予約もでき、時間も指定できる。

(ここしかない!)

 卓司は両親には内緒で行けると考え、送迎車の予約をした。


 数日後、卓司は友達の家に行くと嘘を吐き、送迎車が来る予定の駅のロータリーに向かった。最初は不安だったが、送迎車には自分と同じくらいの身長の子供が何人も乗っており、皆はしゃいでいるので、ホッとして乗り込んだ。

 車は関越自動車道を走り、一時間半で目的地である遊園地に到着した。遊園地の係員らしき若い女性が笑顔で出迎え、卓司達を案内した。

「こちらです」

 案内されたジェットコースター乗り場は薄汚れた感じで、卓司はまた不安になったが、他の子供が喜び勇んで乗り込むのを見て、それに続いた。

「発車します。さようなら」

 にこやかに手を振る女性の妙な言葉が気になったが、コースターは上り坂の頂上に着き、そこから真っ逆さまに下り始めた。

「え?」

 恐怖に顔を引きつらせながらも、卓司はレールが途中でなくなっているのに気づき、一緒に乗り込んだはずの子供が一人もいないのにも気づいた。

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