奇談その二十 現在使われておりません

 卓司は大学四年。秋も終わろうとしているのにまだ就職先が決まらない。最後に面接に行った会社からも不採用通知が届き、ふさぎ込んでいた。

(そう言えば、あいつはどうしているだろう?)

 卓司は最近全く連絡が来ない友人の事を思い出し、連絡してみた。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません……」

 音声案内の女性の声が聞こえた。

(番号を間違えたか?)

 そう思って、もう一度かけてみた。だが、結果は同じだった。考えてみれば、携帯電話に登録してある番号なのだから、間違えようがないのだ。

(番号を替えたのか。教えてくれればいいのに)

 疎遠になっていたにも関わらず、そんな事を考えた。

「あ」

 その時、不意にある都市伝説を思い出した。使われていない電話番号に何度もかけると、オペレーターが出て、

「あまりしつこいと警察に通報しますよ」

 そう言われるのだと。まさかとは思ったが、興味半分で卓司は何度もかけ続けた。

(やっぱり嘘だったか)

 何度かけたかわからなくなった卓司は、こんな事をしている場合ではないと思い、通信を切ろうとした。

「お待たせ致しました」

 耳から放しかけた携帯から女性の声が聞こえてきた。卓司はハッとして携帯を持ち直し、

「もしもし?」

 呼びかけてみた。友人の彼女が出たと思ったのだが、それもあり得ない。「現在使われておりません」とメッセージが流れたのだから。

「ええと、どちら様ですか?」

 卓司は意味不明な問いかけをしてしまった。すると相手の女性は、

「サービスセンターの者です。何かお困りですか?」

「友人の携帯にかけたのですが、番号が替わってしまったらしくて……」

 卓司は気持ちを落ち着かせて応じた。

「そうでしたか。では今からおつなぎします」

「え?」

 オペレーターらしき女性の返答に卓司はキョトンとした。

「つながりました。お話しください」

 オペレーターが告げると、

「もしもし? 平井か?」

 友人の声が聞こえた。卓司はハッとして、

「そうだよ。番号が替わったんだな。何かあったのか?」

 友人はしばらく黙っていたが、

「俺、先週死んで、これからあっちに行くんだ。お前も一緒に来てくれ」

 卓司は携帯を握りしめたまま事切れていた。

 

 

 

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