奇談その十九 あなたは誰?

 梨子は内気な女子大生。彼女の趣味はインターネットの小説投稿サイトに自作を投稿する事。


 母親にすら内緒にして、夜遅くに自室で黙々と執筆している。


 自分の事を知られるのが怖くて、本名はもちろんの事、出身地も年齢も公表していない。


 唯一、明かしているのは女性だという事。


 引っ込み思案な梨子だが、同じサイトのユーザとは何人か交流できるようになった。


 それでも、女性だという以外は一切会話の中でも明かす事はなかった。


 ある日の事。


 梨子はメッセージボックスに着信があるのに気づいた。


 交流のあるユーザからではなく、知らないユーザからだった。


「貴女の作品は全部読ませていただいております。お気に入り登録をさせていただきました」


 男性のユーザだったが、言葉遣いも丁寧で、梨子は好感を持ったので、相手をお気に入り登録した。


 彼のハンドルネームは「けんじ」。彼は所謂いわゆる「読み専」で、投稿は一つもしていなかったが、梨子の小説に対する感想は適切で、誉めるばかりではなく、悪い点も指摘してくれた。


 梨子は好意以上のものをけんじに抱き始めていた。


 ところが、ある日送られてきたメッセージには、


「眼鏡を替えたんですね。とても似合っていますよ」


 息が止まりそうになる事が書かれていた。


(まさか?)


 梨子は背筋が寒くなった。身近にいる誰かが自分がインターネットをしている事を知って……。


 ストーカーかと思ったが、それは考えられなかった。


 小説を投稿している事は誰にも話していないからだ。母親も気づいた様子はない。


「貴女は太ってはいませんよ。他人の目なんて気にしないで」


 次の日のメッセージも衝撃的だった。


「あなたは誰なんですか? どうして私の事を知っているんですか?」


 梨子は思わずそう返信してしまったが、けんじからのメッセージはそれきり来なくなった。


(彼を傷つけてしまったのかしら?)


 梨子は落ち込んだ。


「何してるの? 早く支度しなさい」


 母親がドアを開いて顔を覗かせた。


「え?」


 梨子は我に返って母親を見た。すると母親は呆れた顔になり、


「今日は迎え盆でしょ? お墓参りに行くのよ、お父さんの」


 梨子にはけんじの正体がその時はっきりとわかった。

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