奇談その六 痩せたいお年頃
春子は自分で思うほど太目ではない。しかしあと五キロ痩せたいと思っていた。
ある日の放課後、駅へと急いでいた春子は近道で使っている路地が工事中で通れなかったので別の路地を通った。すると角を曲がった所に皺だらけの顔の老婆が小さなテーブルの上に「易」と書かれたこれまた小さな灯篭を据えてちょこんと座っていた。あまりに意表を突かれたので、春子はギョッとしてしまった。
「悩みがあるな」
老婆の指摘に春子は嫌な汗を掻いた。
「見料はいらんから話してみなさい」
老婆は微笑んだのか睨んだのかわからない表情で告げた。春子は逃げるのが怖くなり、老婆に出された丸椅子に座って話した。
「人に優しくすれば願いは叶う。だが反対の事をすれば倍返しに遭う」
老婆の言葉の意味がわからなかった春子だったが、
「ありがとうございました!」
ダッと駆け出して駅へと急いだ。
春子は券売機の前で途方に暮れている老人を見かけ、声をかけた。そして、老人の代わりに切符を買い、ホームまで一緒に行ってあげた。老人は何度も礼を言い、電車に乗った。春子はいい事をした満足感に浸っていたが、ふと我に返ると自分が乗るはずの電車が行った後だった。溜息を吐き、次の電車を待とうと思った時、ベンチの下を覗き込んでいる小さい女の子が視界に入った。春子が声をかけると、百円玉を落としたら、転がってベンチの下に入ってしまったという。春子が覗き込むと、女の子には届かないくらいの場所に百円玉が見えた。スカートの裾を気にしながらそれを拾って女の子に渡すと、女の子は飛び上がって喜び、嬉しそうに自販機でジュースを買って去って行った。その途端、春子は眩暈がした。
(身体に力が入らない)
彼女はベンチに倒れ込むように座った。すると、目の前に大きな荷物を背負った老婆が現れた。
「どうぞ」
気力を振り絞って席を譲ると、眩暈が更に酷くなり、春子はその場に倒れてしまった。
「大丈夫、お嬢ちゃん?」
老婆が驚いて春子を抱き起こした。
「大丈夫です」
助け起こされた春子は見る見るうちにブラウスもスカートもはち切れそうな身体になり、仰天して目を見開いている老婆に礼を言って電車に乗り込んだ。
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