奇談その三 指きり拳万
律子はスチャラカなOLであった。
そう、それはすでに過去の事だ。
立て続けに怪異に遭遇した彼女は自分のいい加減な性格が災いしたのだと大いに反省し、真面目に仕事に取り組む事にしたのだ。
「世界が滅ぶのでしょうか?」
律子の変貌に後輩の須坂はもうすぐ結婚する我が身を嘆いてしまった。
「そんな事はないよ。ちゃんと理由があるんだから」
律子の恋人の藤崎は苦笑いで応じた。
藤崎自身も律子が真面目に仕事をすると言った事に疑念を抱かなかった訳ではない。
「じゃあ、指切りするわよ、藤崎君」
律子はムッとした顔で言い、
「指きりげんまん、嘘吐いたら針千本飲ーます」
真剣な表情で歌った。いろは歌をふざけたせいで怖い目に遭った律子らしい反応だった。
そして、それから数週間が過ぎた。
その日は藤崎の誕生日。ホテルのレストランで夕食の約束をしていた。
ところが、
「律子君、君にならできるだろう」
梶部次長が直々に律子を指名して、翌日の会議のレジュメの作成を依頼してきた。
律子は藤崎とのディナーの約束を泣く泣くキャンセルし、残業をした。
残業するのも怖かったが、その日は米山課長も残ってくれたので、ホッとしていた。
「終わったようだね。さすがだね、律子君」
米山に誉められ、律子は照れ臭くなった。
時計を見ると、まだ八時。
同じレストランでは無理だが、何とかどこかでディナーを食べたいと思った律子は、エレベーターを待つ間、懸命に今からでも予約できるレストランを探した。
「早かったね、りったん。迎えに来たよ」
扉が開くと、そこには藤崎がいた。
「藤崎君!」
律子は喜色満面で彼に抱きついた。
「別の店に予約を入れたから、そこに行こうか。りったんにどうしても飲ませたいものがあるんだ」
藤崎が爽やかな笑顔で言った。
「うん!」
さすが気が利くわね、藤崎君。律子はそう思い、しっかり腕を組んで会社を出た。
「相変わらず仲いいなあ」
警備員の佐々木は微笑んで二人を見送った。
「佐々木さん、律子さんはまだいますか?」
それと入れ違いに入って来た男性が言った。
「あれ、藤崎君、さっきりっちゃんと出て行ったんじゃ?」
佐々木はキョトンとした。
「はあ?」
藤崎も首を傾げた。
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