奇談その二 肩を叩かれる
律子はスチャラカなOLである。
先日、退職した真弓からの連絡で事なきを得た律子だったが、真弓は電話をしていないと言い、またゾッとしてしまった。
それからというもの、居残りの仕事をさせられるのが嫌なので、同期の香や後輩の須坂、杉村も驚くほど仕事をするようになった。
「何があったのかしら?」
香が首を傾げていると、
「この前一人で残業した時に何かあったらしいんですよ。それでみたいです」
恋人の藤崎がそっと教えてくれた。
「へえ、そうなんだ」
香は本人に直接訊いてみようと思った。
「ねえ、律子、この前、何があったの?」
香が尋ねると、律子はビクッとして振り返り、
「な、何もないよ。嫌だなあ、香は。そういうの苦手だからやめてよね」
顔を引きつらせてバレバレの嘘を吐いて香を半目にさせた。
律子は課のコピー機が故障したので、共用の部屋にあるコピー機を使っていた。
他には誰もいず、シンと静まり返っており、只コピー機の作動音が響いている。
(何だか怖い)
明るいうちからビビり始める律子である。その時、誰かが肩を叩いた。
「藤崎君?」
ニコッとして振り返ると誰もいない。
「ひい!」
律子は慌ててコピー用紙を抱えると、部屋を飛び出した。
(やだやだ!)
泣きべそを掻きながら課に戻ると、誰もいなかった。
「ひいい!」
更にビビった律子の肩をまた誰かが叩いた。
「ひいッ!」
大声を上げると、
「すまない、驚かしてしまったな」
肩を叩いたのは人事部長だった。
「あ、人事部長、何でしょうか?」
律子はホッとして尋ねた。すると人事部長は苦笑いをして、
「只の挨拶だよ。君しかいなかったんだね。世話になったね」
「いえ、こちらこそお世話になりました」
律子は深々と頭を下げた。
「何してるの、律子?」
するとそこへ香が帰って来た。律子はハッとして顔を上げ、
「何って、人事部長がいらしてたから……」
しかし、そこには誰もいなかった。
「もう行っちゃったのか」
ムッとする律子に、
「新しい人事部長がいらしたの?」
香が尋ねた。律子はキョトンとして、
「新しいも何も人事部長は……」
そう言いかけ、人事部長が三日前に急死したのを思い出したところで気絶したのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます