『幽』怪談実話集

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怪談女/黒木あるじ(『幽』vol.13「怪談実話コロシアム」)

怪談女

井戸の女

 カミサマと呼ばれる巫女が、私の故郷である青森には存在する。


 巫女といってもそれを生業にしている者はごく僅かで、たいていは主婦であったり他に職業を持っていたりと、表立ってカミサマと名乗る事なく過ごしている。依頼者が現れた時のみ、彼女たちは宣託をおこない、人ならざるモノのお告げを伝える。


 Dさんが飲食店を開く事になった際、知人からカミサマに逢いに行くよう勧められた。青森では今でも新たに店を構えたり引っ越す時に、場所の吉兆や職業の良し悪しをカミサマに聞きに行く風習が残っている。知人もそれに倣いDさんに進言したのだが、当のDさん自身は、ひどく懐疑的だった。


 連れて行かれた場所が何の変哲もない民家だった事が、Dさんの気持ちを更に落ちこませた。金と時間を浪費してインチキ話を聞かなきゃいけねえのか。ため息をついて玄関をくぐり、居間にあがる。

 目の前に座っていたのは、家のたたずまい以上に平凡な「どこにでも居そうなオバちゃん」だった。適当に話を聞いて、早いとこ切り上げよう。ため息をつきながら座布団に腰を下ろしたDさんをまっすぐ見つめて、おもむろに「オバちゃん」が口を開いた。


「今のままでは、アンダは死ぬべな」


 呆然とするDさんをよそに、カミサマは言葉を続ける。


「お店の裏手に、井戸があるだろ。そこで何年か前に、女の人が亡くなってるな。まだ成仏出来てないから、店を建てて良い場所でネぇんだ」


 カミサマの強い口調に気おされて思わず頷いたDさんは、慌てて店に戻った。だが、裏手には一畳ほどの空き地があるばかりで、井戸なぞ影も形も見当たらない。

 なるほど、脅かしておいて御祓いだ祈禱だと、あとから金をせしめるつもりに違いない。非道い商売もあったものだ。Dさんが腹を立てているところに、家賃を貰うため老婦人の大家がやってきた。


「ちょっと、聞いてくださいよ」


 憤りにまかせて、Dさんは今までの経緯をまくし立てた。まったく、井戸なんて無いのに何か言えば当たると思ってるんですよね。

 ふと、大家の様子がおかしいことに気づいて、Dさんの語りが途切れた。

 俯いていた大家が、顔をあげる。


「井戸、あったの。小さい裏庭ね、井戸を埋めて作ったの」


 じ、じゃあきっとカミサマ、昔のこのあたりを知っていたんですよ。だって、だって女の人が死んだなんてのは、そんな事は無いでしょ。

 狼狽するDさんの問いかけに大家はしばらく黙っていたが、やがて、ぽつりと呟いた。


「うちの娘、井戸で首吊って死んだの」


 直ぐに店を引っ越したため、その後どうなったのかは知らないという。





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