23、木の根のはなし

 伊勢の青川あおがわでのはなしだそうです。山林の測量に向かっていた由地ゆぢという武士が谷にさしかかったところ突然に腰にさしていた刀のつばがチリリリ――と鳴り始めたのだといいます。

 何かを知らせる現象だろうと由地は警戒をしてあたりを見回したのです。すると谷川の水の中から光りかがやく牙をむいた大魚が跳び上がってきました。由地は刀を抜いて大魚を斬りつけて難を逃れましたが、不思議なことに斬り込んだ刀はいくら押しても引いても魚の身から引き戻すことは出来ませんでした。

 刀から手を離し汗をぬぐって、ふと見ると、魚は大きな木の根になっていました。


 不思議な木の根であるとして、由地はそれを屋敷へと持ち帰り守り仏が不動明王であることから、喰い込んでしまったままの刀を活かし、を彫らせて寺へ納めたということですが、五六十年前にその寺は廃寺となってしまったそうで、そのの木像の行方ゆくえも詳しくは分からないのです。

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畍吟抄鬼談 @oobun

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