20、椀のどじょうのはなし

 三月、吉岡よしおか町のある男の家で、その日の来客用の盃や椀を洗っていたところ、井戸からくみあげた水のなかに、火のように真っ赤なが居たといいます。めずらしいものだと脇のたらいに入れて置いたそうですが、知らぬ間にどこかに見えなくなっていました。

 いっぽう台所で料理の準備をしていた者が盛り付けをしていると、椀のなかのひとつに真っ赤ながいたので驚いてしまいます。「ここに入っていたぞ」と、どんぶり鉢にうつして井戸ばたにまた運び、たらいに入れて置いたそうですが、これも翌朝には消えてしまっていたのです。


 そのの浮いてあらわれた椀は、来客にいた某家の息子が使ったのですが、そののちふた月ばかりして、その息子は疱瘡にかかったそうです。ところがふしぎなことに熱毒に苦しむ様子も何もなく、たちまち二晩ばかりで快癒してしまったといいます。

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