17、一本歯のはなし
小間物屋の行商をしていた一本歯とあだ名されていた爺が番町の奥の坂道あたりを歩いていると、向かい側から激しい
大変な咳こみぶりなので「これは難儀なものだろう、ひとつわしのたん切りでも分けてやろう」と足を早めて坂をのぼってゆくと、屋敷から塀ごしに突き出た枝の蔭に風呂敷づつみをかついだ若い男が立っていました。
一本歯が声をかけて、紙の小袋の中から自分が日頃なめているたん切りを手渡そうとして相手と目があうと「あっ」と驚いてしまったといいます。
大きく咳をしつづけている男の顔は、目と口の位置が天地さかさまだったのだそうです。
一本歯は、たまげてしまいましたが、男は差し出したたん切りを受け取るとありがたそうに受け取って口に運び入れると、また二三、大きな咳ばらいをして、一本歯とは逆向きに坂道をくだっていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます