15、蜘蛛のはなし

 鴨居かもい村の喜助きすけは、ひとから「きすけさけすき」と逆さ言葉で呼ばれるほどの酒好きの男で、朝にも昼にも酒をなめて暮らしていました。

 ある晩、喜助が目をさますと酒びんに一寸ばかりのが、つつと歩いてるのが目にとまったので「おれの大事な酒の上をとおるとは失礼な虫だ」とつまんで捨てようとしたところ、つるつると上に登っていってはまたたく間にずりさがり、なかなか抓むことが出来ませんでした。喜助は少し腹を立てて腰をあげ、両手をつかって払い落とそうとしましたがの動きは早く、いたずらに疲れるのみだったので、しばらくすると逐うことにあきてしまい、また横になって眠ってしまったのです。


 明くる日、喜助がかせぎの帰りすっかり暗くなった道を歩いてると、刀をせおった追剥おいはぎに出遭って命をとられる危険にさらされたのですが、そのとき近くに生えてた木に飛びついて逃げ果たせたさまは、振り返ってみると、先夜に自分が逐っていたの動きと寸分も違わなかったといいます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る