13、狗海老のはなし

 狗海老いぬえびと呼ばれるものが常陸ひたちの海で捕れたことがあるといいます。小さいいぬほどの大きさで、毛が生えている海老えびなのだといいますが、これも珍しい生物あるいは奇怪な生物であって通常には目にすることはほとんど出来ないものなのだそうです。


 多賀たが郡の伊師いしの浜では、忠三ちゆうぞうという男がこれを釣ったことがありました。これは珍しいから干して売ったら高価になるだろうと考えて浜に戻って来たそうですが、いつの間にか竹かごの中から狗海老はいなくなっていたといいます。

 しかし、ふしぎとそれ以来、忠三は他の漁夫たちの獲物の入りが悪い日でもたくさんの魚が捕れることがつづいて、浜の中でも指おりの裕福になったといいます。

 してみると、田原藤太たわらのとうだの持ち帰った龍宮の宝のようなものが、この狗海老であったのやも知れません。




――『畍吟抄』の一冊目は、この「狗海老のはなし」までの計・十三話を収めています。

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