12、渋色の魚のはなし

 柿渋かきしぶ色のような大きな魚が捕れたことがあったそうです。身の長さは一間ほどで、からだの表面にはのような縞模様が浮いてたといいます。似たような魚が捕れたことも無く、知っている者も無く、何という魚なのかは知れなかったということです。


 この魚を品川沖しながわおきで釣り上げたのは三人の漁夫だったそうですが、 食べられるかどうかも分かりませんでしたし、甚だ大きいものでもあるので、漁夫たちはすぐにそれを海に戻しました。しかし、不思議なことにそのうちの一人である四十過ぎの者の親指のつけ根に、がさがさとした違和感が生じました。その男の両の親指の付け根は、陸にもどって来る頃までにはすっかりと岩のような見た目になっていたのです。

 「これは困ってしまった」と、男はしばらく海に出るのを休んだそうですが、渋色の魚を捕った時に一緒だった他の二人は、その時に沖で行方知れずになってしまったのだといいます。

 二人の消えたことを港の者が知らせに来たときには、男の親指の付け根は何もなかったかのようにつるりと元に戻っていたのだそうです。

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