10、耳の如き物のはなし

 しばの磯で人間の耳の如き物が流れ着いていたことがありました。大きさは一寸五分余りで、色は肉そのものであったといいます。

 尾張おわり――これは魚河岸の者の名。――の下男が、実際にこれを見に遊びに行ったというので後日よく聴いてみると、見たところやわらかそうに見えたが、触ってみると生の大根のような堅さで、薄気味が悪かったと語っていました。


 柴の磯に漂着したそれと同じ物かは確かめるがありませんが、十年以上前の夏に知り合いの魚屋が切り分けていたの腹の中から、濃い緑色のにまみれ包まれた人間の耳の如き物が出て来たということがありました。

 それは、肉色ではなく周囲を包んでいた藻と同じ緑色で、洗っても洗っても色はそのままでした。

 においは全くなく、切って見ても血などは出て来なかったことから、人間の耳そのものでは無いということが知れたということです。

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