7、悪党と魚のはなし

 周防すおう石見いわみの間にある吉賀よしかというところの山に、五十歳過ぎの悪党――名は何というのか聴きそびれました――が居たのだそうです。

 その悪党はそれまでの人生で何十人もの旅人を大きな石斧を使って殺しては、その遺骸を淵へと投げ込んでいました。それが、ある年のこと、石道で足をすべらせて両腕の骨を折ってしまったのです。

 険しい山の中を思うように動くことも出来なくなり、悪党はねぐらの近くに老母が作っていた畑を眺めて坐ったり寝転んだりする日々を送ってたのですが、ある時、ふと気が付くと、その畑の一角に妙に成長の早いささのようなものが何本か出て来てると知ったのだそうです。気にしはじめたその日は僅かに握りこぶし程の高さだったその笹のようなものは、あくる日にはその倍に、その日の夕暮れ時分にはひとの背丈くらいに延びさかっています。

 不思議に思った悪党は、老母にそのことを語りましたが「お前は畑のほうなど日頃眺めたりもしたことも無い、きっと見間違えているんだろう、あれは随分前からあの高さだった」と返答されるだけでした。

 いよいよ気になった悪党は、痛む腕のことなども余り気にせず、脇目もふらずに笹のようなものの様子を翌日も眺めつづけてみました。すると、日が高くなる頃には本数が瞬くうちに増えて、ひとむらの笹やぶのようになっていました。


 その晩、悪党は畑の近くに出て行き、笹やぶのようになったその根元を足をつかって掘り返してみたのです。

 すると、笹のようなものの根の先には、のような色の魚がおり、その眼玉が悪党のほうをぎょろぎょろと睨みながら、よくよくいだ鏡のようにひかってたのだといいます。


 夜が明けて老母が畑に出て来ると、悪党は畑の一角で倒れており「魚から生えていた」とか「眼玉がひかって睨んで来た」などとうわごとを言いつづけ、それから四五日のうちに死んだのだそうです。

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