3、白んばのはなし

 奥羽おうう檜山ひやま郡の海では「白んば」という大魚がまれに網の中にまぎれて揚げられることがあるといいます。

 話によると、大きさは二丈ほどもあり、等のように平たい形をしています。大きさの割りには重たくは無いともいいますが、背にいくつかあるひだのようなものからぬるぬるした汁を出しており、素手で持ち運ぶのは甚だ困難だそうです。


 見た目も魚肉も初雪のように澄んで白く、味は甘いとされますが、かの地では山での修行の暮らしから脱落をして悪事を重ねるようになった天狗てんぐが親玉天狗から罰を受けて流されたすがたがこの「白んば」であると語る者もあり、一部では好んで食べるものでは無いと言われてもいるそうです。


 天狗たちの間に規律というものが存在するのかは良くわからないものであるが、天狗のように鼻が長い魚というわけでもないのに天狗であるとしている者がいるあたりは何とも面白いことである。鼻や翼をもがれてつぶされでもした姿としてこの珍魚を捉えたものなのであろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る