2、ちうよのはなし

 常陸国ひたちのくに水戸の沖合に、その時その時で最大の長さはまちまちだそうですが、何丈なんじようも長さのある大きな奇魚が姿を見せることがあったといいます。

 鱗は無く、背は青く腹の側はにぶい白色をしていて、海面近くをくるくると泳いでまわる姿が沖で働く漁船の上や、荷を運ぶ廻船から見られることがあるのです。大抵は日の高くのぼった時分に見られるそうで、海霊ふなゆうれいのたぐいなどでは無いと考えられています。


 ある船はこの大魚から相当に近づかれたことがあり、船縁ふなべりに顔を乗せ、ぎらぎらとがれた鏡のような眼でにらまれ「少しきもが冷えた」と語ったといいますが、「いくち」や「ほうづ」などの大魚のように身体から油を落とすなどという特徴はこの「ちうよ」には無かったとされます。


 「ちうよ」という名は蛮語、あるいは漢語の「中有ちゆうう」から来ており殺生を重ねた者の浮かばれぬ姿であり、肉としてふかしやちの腹にしおとともに消える存在でしか無いという説も聞いたことはありますが、いずれもうわさを耳にしたにわか僧侶などが付け足したもののようで、確かな説では無いと見えます。

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